この日の本会議採決では、国民の玉木雄一郎代表らが賛成票を投じた際、自民議員らから拍手が起きた。岸田文雄首相は本会議後、国民会派を訪ねて玉木氏と「腕タッチ」し「ご指導に感謝する。また引き続きどうぞよろしくお願いする」と感謝を伝えた。
国民民主が異例の予算案賛成 維新あきれ顔、自民えびす顔 立憲は… | 毎日新聞
今国会は維新や国民民主党が参院選でそれなりに伸びてからの国会であり、立憲民主党などの主要野党の勢力に勢いがない状態でありかつ首相が野党にそこまで露骨には挑発行為をしない方なので、そこまで荒れることもなく予算案可決するかと思ったら、まさかの国民民主党が爆弾を落としていきました。
補正予算案に賛成すると言うのは、安倍政権時代や菅政権時代の日本維新の会などが行っていたのですが、本予算に賛成すると言う動きは、あまり前例はなさそうです。(日本維新の会は本予算は「身を切る改革が足りない」「増税分が前提の予算」みたいな理由で反対しています。以下に2017年度の一例を引用しておきます)
日本維新の会は24日の両院議員総会で、予算案への反対を決定した。文部科学省の組織的天下り斡旋問題などを踏まえ「身を切る改革」を掲げる立場から容認できないと判断した。維新は1月に成立した28年度第3次補正予算には賛成していた。
予算案、年度内成立確実に 27日に衆院通過 維新は反対へ 参院28日審議入り – イザ!
この賛成した理由が個人的に不可解と言うか、岸田総理に甘すぎるとしか言いようがない理由で。
理由は、先の衆院選で追加公約に掲げた「トリガー条項の凍結解除」によるガソリン値下げが実現する見通しとなったと判断したためです。
トリガー条項凍結解除でガソリン値下げを実現するため予算案に賛成 | たまき雄一郎ブログ
この判断と言うのがクッソ甘いと言いますか、そもそも本予算案はトリガー条項についての関連の予算は存在しないはずですし、トリガー条項を含めた予算組み換え動議は自民党の反対で否決されています。
国民民主党は、上記の内容を含む予算の組み替え動議を衆議院において提出し、政府与党に実現を迫りました。動議は否決されたものの、高騰を続けるガソリン・軽油価格対策について、政府は私たちの「トリガー条項凍結解除」の提案を採用する方向を示しました。また、政府の予算については、不十分ながらも賃上げと人への投資を重視した内容になっています。
令和4年度予算について(談話)
(政府予算について多少ポジティブな評価を捻り出しているしていることにも注目でしょうか)
そして、現在のトリガー条項についての政権の扱いは玉木雄一郎氏自身が引用している以下の首相答弁にて明確に示されています。
「トリガー条項の凍結解除も検討から排除しません。しっかりと検討した上で、必要な措置を行っていきます。」
「あらゆる選択肢を検討する中で、御党のこれまでの検討やご提案についても、しっかりと参考にさせていただきたい。」
一選択肢としての参考、この程度だとしかこの答弁からは判断できないのではないでしょうか。
見通しにはある程度の根拠があると思うのですが、この「検討」すること自体がもう成立したも同然なのだと言う経験則とか分析もあり得るのかもしれませんが、現在そこまで言い切れるほど岸田文雄氏自身や政権のテンプレートというか、動き方の癖は明確になっているとは思えません。
そんなことを考えていたら玉木雄一郎氏は新たな見通しの根拠を出してきました。
首相は「検討」としか口にしていないが、玉木氏はこの日の記者会見で、首相と直接電話で協議したと明らかにし「一国の首相と公党の代表である私との間で結んだことが全てだ」と述べ、実現の確約を得ていると主張した。「予算に賛成した以上は、こっちの言うこともちゃんと聞いていただきたい」と気を吐いた。
野党の一線越えた国民民主、予算案に賛成の舞台裏 首相と直接協議も:朝日新聞デジタル
首相と電話協議した、と言うことです。
外からは全く電話の詳しい中身はわからないので、これがどこまで確かな「結んだ」なのかはわかりません。
正式なものは国会以上のものはまだ存在していないことが明確になったといえるでしょう。
(その後、読売新聞リークとして「本格的な協議をする検討に入った」「協議体設置案も」という報道がでてきました。本当になにもきまってなさそうで…)
こんな不確かな根拠で、しかも本予算案とは直接関係ない理由で賛成することについて、党内ではどう思っているんだろう?と思ったのですが、異論はどうも数名の議員しか表には出していないようで。
予算案に賛成することは、「岸田政権の運営全体を信任する」とも言える大きな決断で、党内には異論も出ていました。
国民民主党幹部
「我々が目指しているのは野党で政権交代することでしょ、自民党と対峙する勢力になることが目的でしょ」きょうの本会議は、前原代表代行が体調不良を理由に欠席しました。
来年度予算案 衆議院通過 野党国民民主が異例の賛成|TBS NEWS
21日の執行役員会では、前原 代表代行や小林 参議院議員会長が、玉木代表の方針に異論を唱え、その後の両院議員総会でも前原氏は反対意見を述べたということです。
このため、21日の衆議院予算委員会での採決にあたっては、委員の前原氏を古川 国会対策委員長に差し替えました。
前原氏は22日の本会議を体調不良を理由に欠席し、採決では出席した党所属の9人全員が賛成票を投じました。
衆議院事務局によりますと、少数会派を除く野党が、政府の当初予算案に賛成したのは、1994年以来28年ぶりだということです。
新年度予算案 自民・公明と国民の賛成多数で衆院本会議で可決 | NHKニュース
一方、Twitter上では反対意見どころか、国民民主を批判する人に対してけん制する議員や、「これが国民の望む新しい野党の役割」と言ってる議員がいて、賛成よりもそっちの方が「いいの?」という驚きがあったかもしれません。
『野党に対する国民の期待のひとつは「野党らしい反対行動」ではなく、「賛成理由をつくり出す努力」なのだと私は確信しています。』って、私からすると「それ、野党に期待するの筋違いにもほどがあるのでは」という類の期待だと思うのですが、そういう人にも寄り添うのが国民民主党と言うことなのでしょう。
ちなみに「トリガー条項がすごいことだから、トリガー条項の交渉をするために今だけ特例です」みたいなツイートも浅野議員からなされているのですが、「N党」みたいに「トリガー条項を発動する党」みたいなことになるのかな、とか思ってしまいました。
個人的に、玉木雄一郎氏が政界入りする当初自民党からの出馬可能性が存在していたことや、大平氏の思想に共鳴していると言及していることだったり、過去に選挙演説で「今日、私はあえて申し上げる。私は良い意味で権力が欲しい。貪欲(どんよく)に権力が欲しい」「私が大臣なら、あるいは総理大臣なら、6カ月かかったものを3カ月で、3カ月かかったものを1カ月でできたかもしれない。もっと言えば、失われなくて良い命が守れたかもしれない」という欲を隠さない態度を示していたりしているのを見て、どっかの元知事・国会議員みたいに「わたしを次期総裁候補として、次の衆院選を戦う覚悟があるのか」みたいなことをやりたいのかな?とも疑ってしまいますし、宏池会政権をアシストして宏池会っぽい自民党を作り上げたいのかもしれませんし、宏池会に入りたいのかもしれませんが、そもそも単に(玉木雄一郎氏の)そういう距離感がおかしいだけかもしれませんね。
「今日、私はあえて申し上げる。私は良い意味で権力が欲しい。貪欲(どんよく)に権力が欲しい」
高松市の会議場。衆院選が間近に迫った10月中旬、集まった数百人の支持者を前に、国民民主党代表の玉木雄一郎氏(52)は語気を強めた。
玉木氏は語る。国民民主は新型コロナウイルス対策の一律10万円給付などの政策を次々と提案してきた。だが、与党はそのたびに国民民主の案を鼻で笑い、いつも数カ月経ってから与党の政策として実行した――。
「私が大臣なら、あるいは総理大臣なら、6カ月かかったものを3カ月で、3カ月かかったものを1カ月でできたかもしれない。もっと言えば、失われなくて良い命が守れたかもしれない」
大平元首相から受け継いだ「田園」 国民民主・玉木代表の強さの秘密:朝日新聞デジタル
このころから政治家になる道を探りはじめていましたが、すぐに決断できたわけではありません。2002年から内閣府へ出向し、三代の行政改革担当大臣の秘書専門官を務めましたが、二人目にお仕えした金子一義さんからあるとき、政治家にならないかと誘われたのです。金子さんに連れられて東京・永田町の自民党本部に行くと、そこにいたのは安倍晋三幹事長、現総理でした。
「ここの選挙区が空いているよ」安倍さんはそう言って机上の紙を指さしましたが、そこは私の地元、香川二区ではありませんでした。私は、「国政に挑戦するなら、先祖の墓のある場所でやりたい」と考えており、その香川二区に自民党は別の候補を立てていたため、せっかくの安倍さんのお誘いでしたが、自民党からの出馬を断りました。
(中略)
党は違えども、私自身、われこそ大平精神を受け継ぐ者だという自負を持っています。自民党には、かつて大平氏が領袖を務めた宏池会が存続していますが、大平精神は受け継がれてないように思います。30年、40年の時を経ていまこそ実現すべき田園都市国家構想も、自民党内では引き継がれていないのです。そうであるならば、香川県で生まれ育った私が引き継いでいくしかありません。
大平氏は「楕円の哲学」という思想も残しています。円(真円)には一つしか焦点(中心)がありませんが、楕円は二つの焦点を持ちます。大平氏は、相反する立場の者が時に対立し、時に歩み寄り、適度な緊張感の中で併存する結果、楕円のように調和が取れ、世の中がうまく回ると考えていました。それが楕円の哲学です。
いま、日本だけでなく世界で、思想的にも経済的にも社会の分断が進んでいます。敵をつくり、相手を貶めることで、相対的に自分の評価を上げるような政治手法も蔓延しています。しかし、そのような時代だからこそ、楕円の哲学を語る意義があります。たとえ困難でも、大平精神に倣い、対立があっても分断を防いでバランスを取るような政治活動を続けていきたいと思います。
玉木雄一郎が語る、自民党が受け継がなかった「大平正芳の精神」の正体
しかし『野党に対する国民の期待のひとつは「野党らしい反対行動」ではなく、「賛成理由をつくり出す努力」なのだと私は確信しています。』という発言が出てくるような、国民が『ヘゲモニー政党制』、要するに事実上の「一党独裁制」を求める時代、本当に野党は冬の時代になりそうですね。(そういう時代は、国民の認識をひっくり返せるような人材は与党(と衛星政党)に集まり、野党はろくな人材が集まらないという抜け出せない負の循環も作り上げられるので…)
一方で、創設者が「今の日本の政治に必要なのは独裁」とか言ってた政党や与党に賛成する理由を作り出す政党は(秩序を揺るがさない程度の)躍進をするのでしょうが。
ちなみに、「反対するのは簡単」みたいな言及について「簡単なことをするのは悪」みたいな前提があるように見えて、料理の手作り信仰に近い何かが潜んでいる気がしてしまうのですが、本当にそれでいいんでしょうか…
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