この辺の話をします。
(このブログの文章は非専門家が書いているので、正確性には疑義があると思われます。ご注意ください。)
ここ最近の吉村大阪市長での記者会見での発言で話題になりましたが、維新周りがどうも感染者の基準について言及を何度もしているようで、それが「コロナは過大に騒いでいて、原因はマスコミや行政、医師会の過大な演出」という考え方をする方々に燃料を与えている事態になっているようです。
(以下のツイートが燃料になってる様子です。)
一応ですが、このツイートにはCT値の捉え方が間違っているなどのおかしな部分があります。
柳ケ瀬議員(日本維新の会、参院比例)がこういう発言をするに至ったのは、宮沢孝幸氏の影響であることは柳ケ瀬氏自信がブログで書いています
10月5日、京都大学ウイルス研宮沢孝幸准教授とYouTubeライブにおける対談で、PCR検査の重大な問題点についての指摘を受けた。
PCR検査の重大な問題。Ct値の検証を急げ! | やながせ裕文 オフィシャルサイト
この柳ケ瀬議員の主張に関しては、私はこのブログやツイートでの反論が参考になるように思います。
PCR検査の高Ct値は低ウイルス量、低Ct値は高ウイルス量を表します。
ただし何点か注意が必要です。①Ct値が表すのは検体中に含まれるウイルス量である
②検体採取部位(鼻、喉)のウイルス量=全身のウイルス量ではない
③検体採取時に感染初期なのか、回復期なのかを見分けるのは困難①について
新型コロナに関するデマ、不適切な主張についてまとめました。|臨床獣医師の立場から
検体採取ミスがあると検体中のウイルス量は減少します。
検体中のウイルスが少ないからといって検体採取部位のウイルスが少ないとは限りません。
②について
検体採取部位(鼻、喉)のウイルス量と全身のウイルス量は等しくありません。
(ある程度の相関がある可能性はあります)
検体採取部位のウイルス量が少ないからといって全身のウイルス量が少ないとは限りません。
③について
回復過程での高Ct値(低ウイルス量)は感染性が無い可能性があります。
(日本では退院時のPCR検査は不要となっていますので、このことが問題になることはありません)
しかし検体採取時に感染初期なのか、回復過程なのかを見分けるのは困難です。
感染初期の場合、高Ct値であっても数日後に多量のウイルスを排出する可能性はあります。
で、今回の吉村洋文知事の発言は、「おっしゃる通り」という言葉が発言を読むと存在していて、記者の質問を受けて発言したものです。
その質疑応答の流れはこのようなものでした。
記者:フリーランスの【ハラダ 01:34:16】と申します。よろしくお願いします。新型コロナのPCR検査についてですが、このPCR検査の信頼性についてさまざまな課題があると指摘する声があります。例えばですが、維新の会、柳ヶ瀬参議院議員が昨年12月の国会で、現在のPCR検査でのサンプル遺伝子の増幅回数を示すCt値、この設定が高すぎるために、微量のウイルス、あるいは死んだウイルスの遺伝子検出につながる可能性が高く、そうした場合、陽性判定を受けたその人が、どのくらいほかの人に感染力があるのかという趣旨のご質問をされ、厚労省の審議官が、PCR検査の陽性判定、これは必ずしもその人に感染性があることの証明ではないとご答弁をされました。
つまり他の人に感染させる可能性がない人まで隔離してしまっている現状があるのではないかという議員の指摘ですが、この件について知事は把握されておられますでしょうか。
吉村:柳ヶ瀬議員の問答のやりとりまで詳細は把握していませんが、その問題意識については把握していますし、理解をしています。もういいですかね、そのまま話をしても。なんかありますか、質問。もういいですか、お話ししても。
記者:ていうことはPCRの陽性者と感染者は違うっていうご認識を今お持ちということでよろしいでしょうか。
吉村:そうです。陽性者と感染者は明らかに違います。これはもう僕がいろんなところで感染者とか陽性者っていうのも一緒のような使い方をしているときがあります。これは今日の感染者はとか、今日の陽性者はとか、こう言って、いわゆる一般用語としてそういうふうな使い方をしています。
でもこれ、厳密には感染者と陽性者っていうのは、僕は違うというふうに思っています。ここはなかなか伝わりにくいところがあるので感染者、陽性者と分かりやすく言ったりするときもあるんですけども、明らかに違うと思っています。
大阪府・吉村知事が定例会見1月13日(全文5)ワクチンの意味は2つある(THE PAGE) – Yahoo!ニュース
吉村:僕の中では感染者っていうのは、やっぱりそれに感染して、ほかに感染させる力がある状態で、PCRで陽性っていうのは、陽性者はあくまでもPCRで陽性になった人っていうのが陽性者であって、それはイコール感染者ではない。人に感染させる力がなくなっている人も、これはやっぱり陽性者にもなるし、疑陽性の話だってあるし。陽性に出たのが陽性者であって、イコール感染者ではないというのは、僕の頭の中では十分理解していますが、一般用語で使うときには、そこはまとめて使っているときはあります。
問題意識として思うのが、おっしゃるとおりCt値の範囲が、他の世界の諸国と比べて日本はかなり厳しいCt値の範囲を設定しているので、つまり人にもう、うつす状況じゃなくなった人まで陽性者として拾っている部分はあるんだろうなというふうに思います。
昔、巨人の選手が出たような微陽性とかいうよく分からない言葉が生まれましたけども、たぶんああいうのもそうなんじゃないかなとは思いますが、非常に小さな値で陽性、つまり本来、人にもううつす状況じゃなくなっているのに陽性として出てしまう。その人自身も陽性者として扱うこと、それによって不必要な対応が生じているんではないかという問題点は、僕自身もそれはあるだろうなというふうに思っています。
で、特にこれは実務上、顕著になるのが、退院の基準ですけれども、昔はPCRで陰性が2回出ない限りは退院基準を満たさないということでしたが、今はそうじゃなくて、症状発生から10日たつ、そして72時間以内に症状が改善しているということであれば、PCR検査をすることなく、もう人にうつす力はないという判断の下で退院基準を満たすということになっています。
それでじゃあ退院させようとしたときに、今度は大きな病院でそれをやって退院させようとしたら、元いた病院に戻そうとすると、元いた病院からすると、いや、これはきちんと検査しないと受け入れませんとか、あるいはいろいろな受け入れられませんという、そこのベッドの、本来使わなきゃいけない人にまでなかなか使いにくくなっているというところの問題点は、特に陰性検査のところでは出てきているなというふうにも思っていますので、PCR検査の中で陽性者と感染者は違うとは思っています。
ただ、それも国の統一した基準でやらないと、大阪だけ独自にCt値勝手に変更すれば、それはやっぱりおかしなことになるので、国において方向性は決定していくべき問題じゃないかと僕は思っています。
大阪府・吉村知事が定例会見1月13日(全文6完)陽性者イコール感染者ではない(THE PAGE) – Yahoo!ニュース
柳ケ瀬議員の話と被っている話も多々あるのですが、そもそも感染者について「僕の中では感染者っていうのは、やっぱりそれに感染して、ほかに感染させる力がある状態で」と言う部分が話をややこしくしている主因で、感染者であることとその方が感染源になり得るかと言うのは厳密に言うと別概念であって、そこは丁寧に扱わないと「陽性者と感染者は明らかに違います」という話の帰結として「意図的に過剰に演出されている」に到着してしまいかねないのかな、と思うのです。
他にもおかしい部分として挙げられるのは「おっしゃるとおりCt値の範囲が、他の世界の諸国と比べて日本はかなり厳しいCt値の範囲を設定している」という話。
Ct値については、柳ケ瀬議員がブログに書いた時期と同じくらい(昨年の10月~11月)に、日経新聞が記事ネタとして拾っていて、「国際的にも40程度に設定している国が多いとみられる」と書いているんです。
陽性と判断する基準値には、増幅に必要なサイクル数(CT値)を使う。基準を高く設定するとウイルス量が少なくても陽性と判断される。国立感染症研究所の新型コロナの検査マニュアルでは、原則この値が40以内でウイルスが検出されれば陽性と定めている。
一方、台湾では35未満に設定しているとされる。日本で陽性となった人が台湾では陰性となる可能性がある。中国は中国疾病対策予防センター(中国CDC)によって37未満を陽性と判断するが、37~40の場合は再検査などを推奨している。
日本でも一部検査機関では40に近いと再検査する機関もあるが、国の指針などはない。国際的にも40程度に設定している国が多いとみられる。
英オックスフォード大学の研究チームはPCR検査が死んだウイルスの残骸を検出している可能性があると報告。英国の別の研究では、値が25より小さい陽性者の85%以上は他人に感染力があるウイルスが培養できたが、35を超えると8.3%しか培養できなかったとの結果もある。
米ニューヨーク・タイムズの報道では、米国でも基準値は40前後に設定されているが、一部の専門家から「30~35程度が適正だ」との声も上がっているという。
日本臨床検査医学会で新型コロナ対策を担当する柳原克紀・長崎大教授は「ウイルスが極めて微量だから感染性がないとは現状では言えない。使う機械や試薬によってもCT値は異なる。この値だけで断言するのは難しいだろう」と指摘する。
基準値を高めに設定することで、発症前や感染初期でウイルス量が増える前の陽性者を確実に見付けやすくなる可能性もある。柳原教授は「現在は安全性を第1に考え、日本は最も厳しく設定されている。研究が進めば基準の変動もあり得る。国際的な議論が必要だろう」と指摘する。
新型コロナ: PCR「陽性」基準値巡り議論、日本は厳しめ?: 日本経済新聞
ちなみに、日本以外もそういう数値を採用しているっぽいという証拠として、「無症状に感染力があると言うのはデマ」と言っている人のツイートに使えるものがあったりします。
国際的に演出していると言いたければ、そういう証拠をみつける、ということなのでしょう。
ちなみにここでCt値として45と言う数字が出てきていますが、これについては「機械で何サイクルまで回すか」と言う話と「何サイクル目で判定するか」という話が混同されている、ということのようです
国立感染症研究所の「病原体検出マニュアル(令和2年3月19日)」を確認します。
(中略)
「陽性コントロールの増殖曲線の立ち上がりが40サイクル以内にみられ、かつ陰性コントロールの増殖曲線の立ち上がりが見られないときに試験が成立するとみなす」とありますので日本での判定に用いられているサイクル数は45サイクルではなくて40サイクルです。
またCt値と感染力というのは、確かに議論になっているっぽいのですが、症状があるかとの兼ね合いだったり、慎重にとりあつかうべき事象であって、そんなシンプルにCt値だけで議論できるものではないように見えます。
特に、遺伝子検査で陽性を示す患者の感染性をどのように評価していくのかがこれからの検査の重要な課題となっています。その評価において、Ct値(Cycle Threshold)が重要な項目の1つとして注目されています。Ct値は特異遺伝子が陽性となるまでのサイクル数になります。Ct値が低い陽性検体は遺伝子数が多い(感染性が高い)、逆にCt値が高い結果は遺伝子数が少ない(感染性が低い)ことを意味します。また、特異抗体価の出現と一致してウイルスの分離が減少することも報告されています。将来的には、遺伝子検査陽性が持続する患者に対してCt値や特異抗体の検出などを併用することにより、より正確に感染性を評価することができるようになるのかもしれません。
COVID-19検査法および結果の考え方|感染症トピックス|日本感染症学会
Ct 値が高い(ウイルス遺伝子数が少ない)場合には、たとえ遺伝子検査が陽性であっても、その検体から感染性を示すウイルスが分離されにくくなることに注意する必要がある。また、Ct 値は検査系(機械・試薬等)によって数値が変動するので、数値の一般化が出来ないことにも留意するべきである。
COVID-19 検査法および結果の考え方(2020 年 10 月 12 日)
ちなみに、この日本感染症学会の文書に、遺伝子検査法(PCR検査などのこと)について「それぞれの検査法ごとに感度・特異度に差がみられるが、概ね感度 90%以上、特異度はほぼ 100%と考えてよい」という記述があるのにも、個人的には注目していますが、それはそれとして。
この研究報告にもCt値の記述があるのですが、有症者については「リアルタイムPCRの結果との相関では, Ct値30未満の検体からウイルスが分離されることが多かったが, Ct値35以上の検体でウイルスが分離されたものもあった。」とあり、少なくとも有症者をCt値を下げて対応すると危険であることが示されているように見えます。
また無症状者について「ウイルスが分離された検体のCt値は30未満であり, Ct値30以上の検体では分離陰性であった。」とはあるのですが、ここについては「研究が進めば基準の変動もあり得る。」ものなのだろうとは思いますが、少なくとも「病院の実務がきついから基準変えたい」とかでは動かしてはいけないんじゃないんでしょうか。
あと、気になるのは、富山県の研究(222例)のCt値(四分位範囲が書かれています)を見ると、Ct値35以上ってほとんどいないように見え、実務的にもそこは専門家に任せて、もっと違う話をした方が良い気がします。
クリックしてcovid19_20201218.pdfにアクセス
特にCt値の問題が「無症状感染者の扱い」であることを考えると、吉村洋文氏が例示しているような、そこが一定程度改善されているはずの入院患者についての、入院後の話というのは、この柳ケ瀬議員の議論話だったり「陽性者と感染者は違う」につながったCt値の話とはちょっと別問題のように思うのですが。
これ以外にもイソジンのようなこともありましたが、こんな感じでよくわからない問題提起をして、社会になんらかの影響を与え続けるのが維新の会の(「しがらみに捕らわれず改革を進めることのできる政党。」という)イメージ戦略なのかもしれませんが、それがどういう作用をもたらしているのか、一度振り返ってほしいものです。
ちなみに吉村洋文氏が述べている「巨人の選手が出たような微陽性とかいうよく分からない言葉が生まれましたけども」と言う話は、このような顛末です。使わないようにしましょう。
「まず一点、事実確認させてほしい。巨人の2選手がPCR検査を行ったときに『微陽性』という言葉が出てきましたが、医学的に『微陽性』という言葉はまったくございません」ときっぱり否定した。
『微陽性』は医学的用語にあらず…コロナ対策会議の座長説明「会話の中で出てきたもの…今後使わない」:中日スポーツ・東京中日スポーツ
3日に巨人の坂本勇人内野手、大城卓三内野手がPCR検査でコロナ感染と判定されたが、「陽性とお聞きして確認させてもらったところ、ウイルスの遺伝子量が微量だった。口答で『微量、微陽性というようなことですかね』と話したのがリリースに載ってしまった。巨人さんが使ったのではなく、私の会話の中で出てきたもの。今後使うことはない」などとした。
「事実確認ということでお話しさせていただきます」と切り出した賀来・特任教授は、先日、巨人が坂本、大城の新型コロナウイルス感染を伝えるプレスリリースに使った「微陽性」という言葉について、こう説明した。
「プレスリリースの中に『微陽性』という言葉が出てまいりました。陽性ということをお聞きして『CT値(ウイルス遺伝子量)が、どれくらいの値だったのでしょうか』と確認をさせていただいたところ『40』に近い微量のウイルスの遺伝子量だったということもあって『これは微量な値ですね』と。私は検査の専門医でもありますが、『微陽性』という言葉は医学的にはございません。こういった言い方はないのですが、あくまでも表現として口頭で『微陽性みたいな感じですかね』と言った言葉がプレスリリースの言葉となって載ったということで…『微陽性』というものはなく陽性なんですが…読売巨人さんが作ったのではなく、わたしの会話の中から出た言葉なんです」つまり坂本、大城のPCR検査の陽性結果にあわてた巨人が専門家である賀来・特任教授に、今後の対応、措置を相談する会話の中で出た「微陽性」という言葉をいかにも医学用語のようにプレスリリースに掲載し、それが広く報じられる結果となったのである。
巨人の「微陽性騒動」が専門家釈明で決着も全球団PCR定期検査実施決定で無症状感染者の対応に不安残る(THE PAGE) – Yahoo!ニュース
世間では、まるでメディアの造語のようにも受け取られているが、なんらかの意図をもって巨人が賀来・特任教授の会話の中の言葉を切り取り、あたかも医学用語のようにプレスリリースに掲載したことが発端なのだ。
さらに賀来・特任教授は、「ぜひ、ご理解をいただいて、その言葉は使わないでいただきたい、と私からもお願いします」と、今後、無症状感染者を表す場合の医学用語として「微陽性」を使用しないことを訴えた。
(個人的には岩田健太郎氏も似たようなことを言っていると言うことが非常に気がかりでなりません。)
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