都合のいい発信で説明を怠ったように見える河野太郎大臣

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モデルナワクチンの供給量の契約が変更されていたことが、7月6日に公表されました。

加藤勝信官房長官は6日午後の会見で、新型コロナワクチンの米モデルナ社の供給について、6月末は当初予定の4000万回から1370万回に減少していたことを明らかにした。

モデルナのワクチン供給、6月末は1370万回 当初予定4000万回=官房長官 | ロイター

この日、この記者会見の前に、河野太郎ワクチン担当大臣の記者会見にて、同じことを発表しています。

モデルナ社製ワクチンの量でございますが、当初の契約は第2四半期に4,000万回分ということになっておりましたが、その後モデルナ社との協議で調整をさせていただきました。第2四半期分で供給を受けたモデルナ社製ワクチンは1,370万回分で、残りが第3四半期に供給を受けるということになります。

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年7月6日(後半) – 内閣府

この協議による調整なのですが、河野太郎大臣によると、「かなり当初」「ゴールデンウィークごろ」に変わっていたようです。で、公表しなかった理由は「量についてはそれぞれのメーカーとの合意の上で、発表するということになっております。」と述べているのですが、その量の公表の合意について“出来なかった”のか“しなかった”のか、日本側の動きがわからないのです。
正直「日本政府も公表しようとしていなかった」のではないかと思うのですが、それを都合よく、オリンピックの酒類提供の時の「大会の性質上、ステークホルダー(利害関係者)の存在があるので」のような、政府外の組織に決定の責任転嫁を行おうとしているように邪推してしまいます。

行政学が専門の政治学者で東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんは根本的な課題として「政治が責任を負う姿勢を見せないこと」があると指摘する。

「政治の側は都合が悪くなると、誰かのせいにして本来背負うべき政治責任を負わないということを明らかに繰り返しています。それは先日の五輪の会場での酒類販売について、丸川珠代大臣が『ステイクホルダーの存在がある』とスポンサー企業に責任転嫁しようとしたことにも現れています」

「東京五輪の中止を求めないという選択は正解だった」逃げ続ける政治に専門家が突きつけたメッセージ

(問)先ほど、6月末までのモデルナ社製ワクチンの供給量に関して、初めて1,370万回分という言及がありましたけれども、当初の4,000万回分の供給という契約から実際に減るという調整が、モデルナ社側から示されたのはいつごろで、どのような説明があったのでしょうか。
(答)かなり当初に調整をして、4,000万回分という数字を変更しております。

(問)具体的にはいつごろですか。
(答)正確には覚えていませんけれども、ゴールデンウイーク前ぐらいかと思います。

(問)この数量が減っているということが、今後の配送計画にも関わってくる重要な要素だと思うんですけれども、今日まで明かされなかった理由については、どのような理由でしょうか。
(答)量についてはそれぞれのメーカーとの合意の上で、発表するということになっております。それから、これは別に量が減ったわけではなくて、第2四半期に行う高齢者へのワクチン接種は、基本的にファイザー社製ワクチンで行うということでありましたので、そのようなことを加味しながら調整を行いました。それからモデルナ社製ワクチンに対する世界的な需要が非常に厳しい中で、日本政府として本当に必要な量を確保するということで、モデルナ社と協議の上、決めたものでございます。

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年7月6日(後半) – 内閣府

で、この公表がなされるまでに、実は河野太郎大臣は何度か、この数字についての質問を受けています。

しかし、その時の回答がとても粗雑なものであるように見え、それが今回の「唐突な公表」の前振りとしてとても機能しているように思います。

(問)職域接種に使うモデルナ社製ワクチンなんですが、上半期に4,000万回分の供給という契約だったと思うのですけれども、これは契約どおりに供給を受けられそうでしょうか。
(答)上半期に幾つ?

(問)4,000万回分。
(答)違います。

(問)違いますか。6月末までに4,000万回分で、第3四半期1,000万回分で、計5,000万回分と。
(答)違います。

(問)違いますか、分かりました。では、現状はどれぐらい届いているかというのは。
(答)それは、モデルナとの関係で対外的に公表しないことになっております。

(問)職域接種が始まると相当モデルナ社製ワクチンの使用量も増えてくると思うんですけれども、これは、供給は十分できそうなのかというのと、場合によっては希望が多ければ不足する懸念もあるのかというのは、そこはいかがでしょうか。
(答)ストップするぐらい頑張って職域接種を立ち上げていかなければいけないと思っておりますので、是非、皆様、手を挙げていただきたいと思います。現状では配るほどあります。

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年6月1日 – 内閣府

(問)モデルナ社製ワクチンの配送、輸入の計画についてお伺いしたいのですが、一部報道では6月末までに4,000万回が届くという報道もありますが。
(答)それは完全に誤報です。前も記者会見で、モデルナ社製ワクチンは4月までに4,000万回分が届くのですかという質問をいただいて、「違います」とお答えしても、その数字を継続して使われている社がありますけれども、それは完全に違っております。是非、そこは修正していただきたいと思います。

(問)9月末までに5,000万回分が届くということで、現状ファイザー社製ワクチンのように配送計画等をモデルナ社製ワクチンに関しても示していくというようなことは考えていらっしゃるのでしょうか。
(答)ワクチンの供給については、先方の公表の了解が取れた数字を公表していきます。

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年6月25日 – 内閣府

この二つが河野太郎大臣が質問を受けて6月までに4000万回ということを否定していたやり取りです
(なんか「4月までに4,000万回分」という言葉が見える気がしますが、言い間違いか何かだと思います)

ここで重要なのは、『6月末までに』という数字は厚労省もモデルナも認めている数字であること、そして否定はしたものの実態については公表していないことです。

そういう意味で、当初公表していた事実が、事後的に「誤報」と言える状態になった場合、そうなったタイミングや、正式な事実について当初報道陣に情報提供した側、つまり今回は政府側が説明をして自ら打ち消す必要があるのではないでしょうか。

ちなみに、2月25日時点では、「誤報」ではないことはモデルナ側への日経新聞のインタビューで確認できます。

――日本への供給計画は。

「日本向けのワクチンはいつでも出荷できる体制になっている。6月までに4000万回分、9月までに1000万回分と、計画通りに供給できる。供給開始の時期は、武田薬品工業が日本で実施する臨床試験(治験)の結果次第となる。先日200人の被験者の登録を完了し、6月までに治験結果が得られる予定だ。結果が分かり次第、当局に申請し、承認されれば速やかに出荷を開始する流れとなる」

モデルナ、日本向けワクチン「計画通り」 6月4000万回: 日本経済新聞

そこで「6月末までに4,000万回」を打ち消すために河野太郎大臣が発した言葉を確認すると、1度目の否定の時の「現状では配るほどあります。」という言葉がそれにあたるのではないかと思います。

「現状では配るほどあります。」
この言葉を見て「6月末までに4,000万回」という当初計画がどのように変化していると思うでしょうか?

そんなに減ってないのでは、そんなに違うことはないのでは、これがこの言葉の手ごたえではないでしょうか?

そこから「6月末は当初予定の4000万回から1370万回に減少」というインパクトのある数字が出てくるとは少なくとも記者会見にいた人たちは思っていなかったのではないでしょうか?
だからそこについて本当の数字を探ろうとする動きがマスコミ陣に生まれずに、ここまで来たのではないでしょうか?

そういう認識の共有不足・説明不足が今回の反応を生み出したように私には見えるので、この河野太郎大臣のやり取りを根拠にマスコミが悪いかのように言う人には私は同調できません。


また、この認識の共有不足・説明不足が、職域接種での混乱につながった可能性はとても高いように思います。

今回の職域接種のペースを落とすことになった原因についての記者会見での回答です。

――モデルナ製ワクチンの供給量について、少なくとも当初の4千万回分から「減らしても大丈夫だ」と判断したということだが、それが職域接種の休止に影響したのではないか。

 全くないと思う。

 ――では職域接種の休止につながった一番の要因はなにか。

 職域接種はフロー(流れ)の問題だ。モデルナ製ワクチンの輸入総量の問題ではなく、1週間ごとに輸入できる量の上限が今、限界にきているということだ。

 ――6月末までに4千万回分供給される予定だったのが、1370万回分に減るのは、まさにそのフローのことではないか。

 1週間に(飛行機で)何便分が入ってくるかは決まっている。特にフローに影響しているわけではない。

ワクチン減、職域接種休止に「影響ない」 河野氏強調 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

これ、私には誤魔化しのように見えるのです。

総量が減っていることは原因ではなくて、一週間ごとに入ってくる量が限界に来たためとしているのですが、それで当初計画の「6月末までに4000万回分」をどうやって運ぶ気だったのですか?と言うことを考えてみると、誤魔化している内容が見えてくるのではないでしょうか?

『1週間ごとに輸入できる量の上限』があり、かつ『1週間に(飛行機で)何便分が入ってくるかは決まっている』上で、本来は「6月までに4000万回分」が守られる契約だったのならば、多分、現在よりも前倒しして輸入されることにより、在庫を抱えて数字を満たすことになったのではないでしょうか?
輸入した上で在庫化することは可能なはずですから。

つまり現状のように輸入スピードを気にせずとも、契約当初の輸入計画のままだったならば、事前に輸入された在庫を利用して職域接種を今より早く行うことができたのではないでしょうか?(それでも申請数にモデルナのワクチンの総量は追い付いていないようには思いますが)

また、ここで述べられていない休止の理由に、私はモデルナのワクチンの量についての認識の共有不足・説明不足があるように思います。

職域接種を応募する前に、6月末までどの程度の量が来るのかをオープンにしておけば、早期接種を見込んだ準備をする集団は減ったのではないでしょうか?

読売新聞によると、ここまでの応募があることを想定していなかったとしていたのですが、そういう観点でも、モデルナのワクチンの量が変わっていることを早期に説明して、需要過熱を落ち着けるて「接種スピードの最適化」を図る必要があったのではないでしょうか?

政府は先月8日、職域接種の申請受け付けを始めた。当初の見積もりは「1日数万回」(内閣官房幹部)どまりだった。米ファイザー製ワクチンを使う市区町村による接種を本命視し、米モデルナ製を使う職域接種は「脇役」扱いにすぎなかった。

 しかし、従業員の感染を恐れる企業の関心は極めて高く、申請が殺到した。「1日100万回接種」という政府目標を受け、モデルナ製を使う独自接種会場を設ける自治体も相次いだ。9月末までに5000万回分を確保していたモデルナ製の上限をあっさり突破し、申請受け付けは約2週間で停止に追い込まれた。

想定超えの職域接種、政府板挟みに…企業は早期再開要請・自治体はしわ寄せ懸念 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

また話がずれますが、『1週間ごとに輸入できる量の上限』があるということが、モデルナの6月末までの供給量に影響していることはあるのかな?と言うのが、個人的に気になる点で。

官房長官会見では、モデルナの6月末までの供給量減少について『この契約では「ワクチン開発に成功した場合」との留保条件が付いており、同社のワクチンが日本での薬事承認を受けたのが今年5月21日であることなどを踏まえ、6月末までに「1370万回の供給を受けることになったと聞いている」と述べた。』とされています。

2月末のモデルナへの日経新聞インタビューでも「供給開始の時期は、武田薬品工業が日本で実施する臨床試験(治験)の結果次第となる。先日200人の被験者の登録を完了し、6月までに治験結果が得られる予定だ。結果が分かり次第、当局に申請し、承認されれば速やかに出荷を開始する流れ」と述べていたので、そういう感じだったのでしょう。

この『承認されれば速やかに出荷を開始する』という部分と『同社のワクチンが日本での薬事承認を受けたのが今年5月21日であることなどを踏まえ、6月末までに「1370万回の供給を受けることになったと聞いている」』を合わせると、承認されるまでは出荷できないのだから、輸入本格化も遅らせていいよね?みたいな感じで、6月末までの供給量が減ったのかな、と思うのです。

ちなみに輸入自体は、朝日新聞の記事を参照するに「ワクチンは4月末以降、段階的にベルギーから関西空港に輸入されて」いたようです

ワクチンは4月末以降、段階的にベルギーから関西空港に輸入されており、東京や大阪の大規模接種会場に運ばれる。長時間にわたり厳格な温度管理が求められるため、日本航空、関西エアポート、近鉄エクスプレス、三菱倉庫、メディパルホールディングスなどが協力して輸送に携わる。

モデルナ製ワクチン、接種会場へ出荷開始 特別体制で:朝日新聞デジタル

一週間当たりの輸入量に限界があると言うならば、それに合わせて事前に輸入していないと間に合わないわけで、4月末に輸入を開始した時点で、そこから輸入できる限界量はある程度逆算できるようになっているのではないでしょうか?

つまり、4月末から輸入を始めると決めた時点で、6月末まで入ってくる量は決まっていたのではないでしょうか?

河野太郎大臣は量が変わることが決まった時期を「正確には覚えていませんけれども、ゴールデンウイーク前ぐらいかと思います。」と調整した時期を話しているのですが、それよりも前に決めているような状態じゃないと、「一週間当たりの輸入量」の調整が間に合わないのではないでしょうか?

そう考えると決まったのがゴールデンウィーク前と言うのも私は怪しい気がします。


今回の事態は河野太郎大臣の説明の誠実性が疑われる事態になっているように私には思います。

現在ワクチンについてはどこも手探りで色々やっている状態にあるように思います。

そんな中で、ワクチン担当大臣に一番初めに求められるのは「確実に信頼できる情報の提供」であるように思うのですが、調整と突破の見分けがつかない人が組織のトップに立っている状態では、今後も混乱状態は続くのだろうと想定して動くのが良さそうです。

そのうえで、ワクチン接種に向けた体制を強化するため、全体の調整役として河野規制改革担当大臣を充てる方針を明らかにし「皆さんに安全で有効なワクチンがお届けできるよう、全力で取り組んでいきたい」と述べました。

そして、河野大臣を充てる理由について「規制改革担当大臣として、それぞれの役所にわたる問題について解決してきた手腕から、河野大臣を任命した」と述べました。

河野大臣を新型コロナワクチン接種体制強化の調整役に 菅首相 | NHK政治マガジン

河野氏は、大胆な行政改革など、霞が関の前例主義と秩序を破壊する政治家として現在の地位を築いた政治家だ。史上最長政権となった安倍晋三前内閣では外相、防衛相の要職を歴任。菅内閣では規制改革相として、かねてからの持論であるハンコ廃止に猛進し、短時間で結果を出すなど菅首相の期待に応えてきた。

河野氏は「霞が関のタブーに挑戦し、従来の官僚的発想を打破して目的を遂げる」(自民幹部)のが得意技。これに対し、コロナワクチンの接種という前例のないプロジェクトで、経験や実績を持たない各省庁や自治体を総合的にまとめ上げるには、丁寧で柔軟な調整能力が必要となる。つまり、「河野氏の破壊主義とは真逆の任務」(閣僚経験者)で、与党内でも「ワクチン接種はハンコ廃止とはまったく違う」と河野氏の調整力への疑問と不安も相次ぐ。

河野氏「ワクチン担当」起用に広がる疑問と不安 | 国内政治 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

首相はワクチンをコロナ対策の「決め手」と位置付ける。夏の東京五輪・パラリンピック開催のカギとなり、政権の行方を左右するとみられていることもあり、発信力と突破力に定評のある河野氏に総合調整を委ねた。ただ、政府内の意思疎通が不十分だったことで、「河野氏に調整力が足りないことは最初から分かっていた」(首相官邸関係者)と今回の起用に厳しい評価が出始めた。

ワクチン、6月末「未定」 確保計画、政府が混乱収拾図る―河野氏調整力に疑問の声:時事ドットコム

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