2024/05/26、川勝平太氏の辞任に伴う静岡県知事選挙が投開票され、元浜松市長の鈴木康友氏が当選しました。
この選挙結果についての雑感を残しておきます。
東西対立?
落選した大村慎一陣営は、西部での出陣式にて一部支持者が?『スズキ政治を許さない』と掲げるなど、オール静岡を掲げながらも明らかに浜松の財界等と対立し、批判する選挙戦を展開していました。
大村氏は「これまでは大きな力を持つ特定の誰かの声に左右される県政だった」「料亭の密室で物事が決まるのはどうなのか」とスズキの鈴木修相談役を後ろ盾とする対立陣営を当てこすった。鈴木相談役ら地元経済界がドーム型を要望する浜松市の新野球場についても「ドーム型ありきの議論はストップすべき。ゼロベースで再検証する」とぶち上げ、開放型ドームを主張する鈴木康友氏との対立軸を鮮明にした。西部の分断と、中部、東部からの集票を意識したのは間違いない。
拍手と喝采に包まれる会場。複数の出席者が「よく言った」と振り切った姿勢をたたえる一方、自民のベテラン県議は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。「なぜ対立をあおるのか。向こうの経済界を完全に敵に回してしまった」
「自民色」抑える大村氏陣営 「オール静岡」演出 躍起【静岡県知事選の構図㊤】|あなたの静岡新聞
大村陣営は、鈴木さんのことを「県全体の代表ではなく、浜松の代表だ」などと批判を強めていきます。
上川氏:「どこかの特定の地域の代表ではない、どこかの大きな企業の代表ではない。みんなの代表として」
知事選2024 静岡の選択② 「地域対決」にかすむ「与野党対決」 – LOOK 静岡朝日テレビ
このように、浜松VSそれ以外の構図を固めようと大村陣営はしていたようですが、一方、大村陣営のバックに居るはずの、自民党の浜松市議は財界との関係などから大村氏ではなく鈴木氏の応援に回っていたなど、地域によって自民党が分裂してしまっていました。
一方、総会では、浜松市選出の県議から「もう少し精査すべきだ」という声も上がった。
浜松市では、鈴木の市長時代、自民党と、鈴木を支援する地元財界とが対立した過去があるが、去年の市長選挙では協力して新人候補を擁立。
このため「せっかく改善した関係を悪化させたくない」と考える議員も少なくない。
そうした声に配慮し、幹事長の増田は、こう付け加えた。
「大村推薦は県連の機関決定だが、鈴木氏を推す個人の動きを制限する権限はない」
静岡県知事選挙 “対立の県政”その後は? 鈴木康友氏が初当選 立憲民主党・国民民主党推薦 2024年 | NHK | WEB特集 | 静岡県
中央支部は、24人いる自民党浜松のなかで最多の12人が所属する。支部長の花井和夫氏は、市議団として鈴木氏の支援を決めたことについて「浜松のことを熟知している。経済界と一体となって支援していきたい」と話した。県議を含む支部全体として支援するかどうかは今後判断する。
また、浜松浜名支部は自主投票とする方針を決めた。浜名支部所属で、会派会長の倉田清一氏は「浜松には13支部あり、一本化は難しいだろう」と述べ、各支部の判断に任せる意向を示した。
康友氏を支援へ 自民党浜松中央支部の市議団12人:中日新聞しずおかWeb
大村さんを推薦した自民党も、浜松市では…。
自民党浜松 柳川市議:「県知事としてここにおられる康友さんをぜひとも押し上げていきたい。これが“浜松人としての使命”じゃないかなというふうに思っております。(拍手) そうだー」
鈴木修相談役は、この「浜松人としての使命」という演説に最も感激したと記者団に語りました。
知事選2024 静岡の選択② 「地域対決」にかすむ「与野党対決」 – LOOK 静岡朝日テレビ –
【静岡】浜松市議会で性的少数者に対する不適切な発言をしたと指摘された柳川樹一郎市議(72)=自民党浜松=が8日、記者会見を開いて謝罪した。「市民や当事者に不適格で迷惑をかけた失言で反省している」と述べた。
柳川氏は2日の市民文教委員会で、男性のアパートに侵入して逮捕された男性教員について、「異常な性癖。ふつうは女性のアパートに侵入する」などと発言していた。このことについて、「『異常な行動』と言ったつもりだった。(男性は女性に恋愛するという)長い間の潜在的な意識が出てしまった」と述べた。
性的少数者への不適切発言「潜在意識出た」釈明 浜松市議が謝罪会見 [静岡県]:朝日新聞デジタル
このように、浜松は鈴木氏が抑え、静岡は地元である大村氏が抑えているのではないか、という見方が一般的になっていきました。
その上で両陣営が重点的に抑えにかかったと思われるのが、浮いているように見えた東部・伊豆地区です。
<自民党・細野豪志衆議院議員>「私が大村さんを応援する条件を1つ提示いたしました。それは、大村慎一さんには東部の知事になっていただきたいということであります」
<大村慎一氏>「(マスコミは)争点がない、こんなことを言います。そんなことありません。1番大きな課題の1つは、東部の声を県政に反映できるかどうかです」
「東部の声を県政に」「静岡の未来のために」「リニアと原発許さず」立候補予定3陣営ゴールデンウィークも駆け回る【静岡県知事選 告示まであと10日】|静岡新聞アットエス
前の浜松市長・鈴木康友候補は、大票田の富士市で24日の演説をスタートさせました。
<鈴木康友候補>「富士市や富士宮市や岳南地域、浜松とよく似ています。産業構造がある。こうした既存の産業をさらにさらに活性化させる」
さらに目玉政策として、東部から伊豆半島までを専門に担当する責任者を配置したいと発表しました。
<鈴木康友候補>「かつて伊豆担当副知事というのがありましたけれども、『東部・伊豆担当戦略監』、これはもう副知事級でね、こういう部署をですね、ぜひ作りたいと思いましたし、東部地域の活性化に力を注いでいきたいという風に思っております」
支持獲得へラストスパート 県民への訴え熱帯びる 県政史上最多6人立候補の選挙の行方は【静岡県知事選】 | TBS NEWS DIG
このように、露骨に地域を意識した選挙が行われ、情勢調査的にもそういう結果が出ていました。
そして、選挙結果としてもたしかに、ざっくりとそのような感じになりました。
結果を細かく見てみた&グラフで遊んでみた
自治体別で見ると、西部の自治体はすべて鈴木氏が1位。それ以外の自治体はすべて大村氏が1位。と、地域で1位の候補がくっきり分かれて、大村氏のほうが1位の自治体が多いと言う形になりました。
しかし、県知事選挙は県丸ごと一区であって、自治体ごとに見て、一票でも多い自治体が一つでも多いほうが勝つような、どこかの大統領選挙みたいな制度ではありません。
自治体ごとの得票を詳しく見ると、鈴木氏と大村氏の違い、鈴木氏が当選し、大村氏が落選した原因が見えてきます。
ポイント差を見ると、鈴木氏が軒並み30%以上の大差をつけているのに対して、大村氏は静岡市以外ではあまり大きな差をつけられてないのです。しかも、比較的大きな自治体となる沼津、藤枝、島田、焼津、三島、といった場所で大差に持ち込むことができず、鈴木氏に接戦に持ち込まれてしまっています。
グラフをポイント差ではなく票数にするとこうなります。
より、大村氏の開票所ごとのリードが小さかったことがわかると思います。(見栄え的に、一つの開票所で静岡市と近い規模である浜松市中央区がでかすぎますが。)
バーチャートレースという形を使って、動的に西から東にかけて、鈴木氏が逃げ切る形を見えるようにしてみました。左下の再生ボタンを押すと動きます。
より大村氏が伸び切らないのが見た目でわかるかな、と。
静的なグラフだと、こうするとどの自治体でどのくらい大村氏が詰めたかわかりやすいでしょうか。(上にある名前を押すとグラフから非表示にしたりできます)
このように、大村氏が静岡市以外であまり差を詰めきれなかった結果、鈴木氏の当選となったように見えます。
なんでこうなった、私なりの感想
今回の鈴木康友氏の勝ち方は、大票田を持つ候補の鉄板の勝ち方ですよね。大票田で大量リードを確保して、その他の地域をできる限り五分に近づけて勝つ。という。
一方、大村氏は、西部地域に大きな自治体があるとはいえ、県知事選の有権者としては所詮静岡県全体の3分の1なので、大負けしたとしても一定の負けに押さえれば、他の3分の2を握る自治体で一定の差をつければ勝てるわけです。
しかし、結果として、1番大きな開票所である浜松市中央区で約44ポイント差がつくなど西部では明らかに負けすぎてしまい、その他の自治体でも微妙に差が開ききらず。
浜松周りで負けすぎた理由としては、大村氏を推薦していた自民党の、浜松市議が大村氏ではなく鈴木氏を支援する動きをしていたことが大きい理由となるでしょう。
推薦する組織が対立候補に取り込まれてしまっていては、はじめから戦える余地はなかったでしょう。
ただ、この浜松市議が鈴木氏側につくという動きについては、上の方に引用したニュースに『鈴木の市長時代、自民党と、鈴木を支援する地元財界とが対立した過去があるが、去年の市長選挙では協力して新人候補を擁立。』と書いているように、地域対立にしてしまうとそうなる可能性が高いと読んで、地域対決に持ち込まれてはいけないと考える人もいたように思うんです。(なんせ鈴木氏は3年前に自民党が担ごうとした候補者なんですから。)
関係者によりますと、鈴木市長の擁立をめぐっては、自民党県連の上川会長が鈴木市長に直接、出馬を要請し、鈴木市長も前向きに考えたいという趣旨の回答をしたことから、具体的に選挙態勢や選挙資金の調整、支援団体などへの根回しも行われていました。先週9日の金曜日には鈴木市長は行政区再編をまとめることを自民党がのむことなどを条件に、「出馬したい」との意思を関係者に伝えました。その時点では12日、出馬表明する方針だったとみられます。
しかし、その後、後援者から「市政に専念すべきだ」などと強く説得され、一転して出馬を断念したということです。
鈴木浜松市長が静岡県知事選出馬断念…その舞台裏 川勝知事とスズキ会長は… – LOOK 静岡朝日テレビ –
個人的に、静岡の民主系の国会議員関係の人があまり好きではないんですよね。
渡辺周みたいに、南京の真実がどうこうとか言い出したり、従軍慰安婦の変な広告に賛同してたり、そういう自民党より右翼な議員ばかりいるイメージで…。
十三人の多くは、三月に民主党の有志議員が結成した「民主党慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会」(会長=渡辺周衆院議員)のメンバーです。同会の中心メンバーは、日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)副幹事長などの役員であり、バリバリの「靖国」派。賛同議員は、民主党のすべての派閥に及んでいます。
これらの民主党議員は、国会の委員会質問などで「南京大虐殺」の事実や「従軍慰安婦」の軍による強制性を否定する発言を繰り返しています。
たとえば、日本会議議連の役員でもある松原仁衆院議員は、「事実がなかった、三十万なんていう話じゃないし、三万という話でもない。なかったんですよ」「大虐殺、虐殺はなかった、間違いなく」(五月二十五日、衆院外務委員会)などと発言しています。
しかし、日本軍による南京や周辺地域での大規模な虐殺は、元日本兵や多くの被害者の証言によって、すでに覆せない事実となっています。日本政府でさえ「旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害または略奪行為などがあったことは否定できない」(二〇〇六年六月二十二日付「答弁書」)と認めざるをえないのです。
「従軍慰安婦」についてこれらの民主党議員は、強制的な連行があったことを強く否定し、「不名誉なぬれぎぬ」だと主張。日本軍の関与・強制を公式に認め、反省とおわびを表明した「河野談話」の取り下げまであからさまに要求しています。
米「慰安婦」決議を敵視/「靖国」派抱え問われる民主
こういう人ら、そもそも考え方がどうなんだと思いますし、なんやかんや(鈴木康友氏のように)自民党からでも本人は平気で出馬できるスタンスのように見えますし、人間関係等々様々な関係上民主党系勢力に属し続けるのでしょうが、個人的には応援や投票をする気にはなれません。(でも今後も立憲民主党はこういう人らも主力になるのでしょうが)
しかし、実際は「スズキ政治を許さない」とやってしまった。
なぜ拙い形で地域バトルに乗っかってしまったのか。
私はここに、現状の自民党の状態が影響している気がするわけです。
簡単に、地域バトルの代わりになる土俵(つまり代わりになる論点)について考えてみましょう。
『国とのパイプを強調し、国VS地方の話にする』『おもむろに立憲共産党とか言い出して野党批判に論点を移す』『辞任した川勝前知事批判で団結する』
自民党推薦候補が取り得る選択肢はこの辺でしょうか。
この内、国とのパイプを強調する路線と、野党批判で押し切る路線が、自民党の低調により封印されたように思うのです。
また、川勝批判についても、暴言批判までは受けるでしょうが、NHK出口調査で川勝県政の評価について『大いに評価11% ある程度評価56%』と出てしまうと一方的に批判し続けてもウケはよくなかったのかな…と。
こんな感じで、結局、川勝批判はきめてにならなそうだし、自民党・政府が絡む土俵では戦えない、というのが、拙い地域闘争土俵に乗って戦うしかなくなった事情なのかな、と。
大村陣営は党幹部の応援も、地元の上川大臣以外は断るなど、「自民党色」を薄めることに腐心します。
上川氏:「愛する静岡市で生まれ育った大村さんと一緒に、静岡市の皆さんとともに」
野田元総理:「今ね、自民党カラーを出すと候補者はマイナスになると思って、推薦をしてもらっている政党の名前出していないでしょう、ほとんど。(大村陣営の)作戦は何かというと、浜松出身か静岡出身かじゃないですか?」
野田元総理の言う自民党の戦略が功を奏したかどうかは別として、激しさを増す「地域対決」の前に、「与野党対決」の側面はどんどん霞んでいきました。
知事選2024 静岡の選択② 「地域対決」にかすむ「与野党対決」 – LOOK 静岡朝日テレビ
しかし、こうなったら西部でいかに抵抗するかも重要になるのに、肝心の静岡西部の自民党(元も含む)衆議院議員の3分の2がまともに使えないわけですから…。(静岡県連会長の城内実と、安倍派トップで党員資格停止中の塩谷立と、なぜか偉そうに東京新聞のインタビューに答えてる離党した宮沢博行が、静岡西部が選挙区の〈元も含む〉衆議院議員。)
岸田文雄首相(党総裁)や茂木敏充幹事長らの名前を挙げ、「政権の中枢部門がリーダーシップを発揮せず、傍観者になってしまったのかもしれない」と指摘。安倍晋三政権で豪腕を振るった菅義偉官房長官を引き合いに、「安倍内閣なら多分、菅さんと幹事長が話をして、(安倍派に対して)『出せ』『出して謝れば収まるんだ』っていうことをやった」と推し量った。
菅氏とは、頭髪の薄い自民党衆院議員有志でつくる「日本を明るくする会」を通じて交流があった宮沢氏。菅氏が政権維持のために重視していたのが、不祥事を起こした議員を迅速に更迭することだったという。
「その日のうちにやる。本人にとってはかわいそうだが、その方が傷口が広がらないし、その後の政治人生にとってもプラスになると、菅先生は言っていた」「(菅氏の)あの采配は記憶にとどめておいた方がいい。危機対応力、あれだと思う」
自民党の政治資金規正法改正案は、22日の衆院政治改革特別委員会で審議入りする。だが、裏金事件が2023年11月に表面化してから既に半年が経過。宮沢氏は「自民党の信頼回復(に必要なの)は、決断力とスピード感。ここに重大な欠陥があったわけだから、これを通したからといって、信頼回復や支持率回復には直結しない」と見通した。
宮沢博行元議員が語る「岸田政権中枢は『傍観者』だった」 安倍派の裏金づくりを暴露…今、自民党に思うこと:東京新聞 TOKYO Web
この辺の問題(の弁明)が県政の話の前に雑音として入ってくることが、唯一戦える地域対決でも、自民党推薦候補に有利な地域の優位性を減らし、静岡西部での大敗をより酷くさせる要素として機能していてもおかしくはないと思うのです。
自民党の推薦を受ける大村氏ですが、陣営は県外から自民党の大物議員の応援を受けず、党派や地域を超えた“オール静岡”で戦う方針をたてました。
(自民党静岡県連会長 城内実 選対本部長)「ちょっと言えないですけど、ある大変有名な方が(応援に)来ると。誰か勝手に決めた人がいるんですけど、私が大変怒って『勝手にやらないでくれ』と断ってもらいましたけど、誰とかちょっと言えないですけど大変有名な方です。自民党色を出さないと言うか自民党は静かに一歩引いてやると」
女性問題で自民党を離党した県出身の国会議員…裏金問題で離党勧告処分を受けた県選出の安倍派座長…裏金問題に女性問題という不祥事が重なりバッジを外した県選出の元議員…大村氏の陣営は自民党に対するマイナスイメージが大村氏本人の選挙に与える影響を懸念しています。
(自民党静岡県連会長 城内実 選対本部長)「一つ言えることは、これは自民党の選挙じゃないんですよ。自民党が推薦したら“政治と金”にまみれた悪い人になっちゃうんですかね。私はめちゃくちゃだと思いますよ」
(中略)
旧民進党公認で初当選し、現在は無所属の平山参院議員は…
(平山佐知子 参院議員)「この選挙、自民党がどう、政治不信がどう、これ申し訳ない一回横においてください」
(自民 推薦 大村慎一候補)「私は今回初めて政治に出たんです。“政治と金”の問題はありません。私にはしがらみがないんです」
「自民党色出さない」不祥事相次ぎ大逆風“大物議員の応援お断り”異例の静岡県知事選 | khb東日本放送
沼津市の企業経営者は「市長を長く務めた鈴木氏は経験豊富。力量は大村氏と甲乙付けがたい」と評する。同市のある経済人は「大村氏に期待する声は大きいが、裏金問題で自民党への逆風は強い。積極的に動きづらい」とまちまちだ。
静岡県知事選 “草刈場”東部へ懸命アピール 大村氏、首長から支持/鈴木氏「西部重視」払拭へ(あなたの静岡新聞) – Yahoo!ニュース
たしかにメインの票差は地域対決だったわけですが、細かい票差にそれ以外のイシューが反映されていないとは思えず、政権支持率・自民党支持率などが違う局面だったならば(鈴木氏側も含む)戦い方、得票数はだいぶ変わったのではないかな、と思ってしまいます。
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