マスクを週9億枚も転売ヤーが買ったという話は存在しない

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マスクが足りないことを転売ヤーのせいであるかのように語るツイートがバズっているようですが、実態としては転売ヤーの影響がどこまであったかは不明である一方、普通に需要がとても高くなっていたということはある程度証明できるので、転売ヤーのせいであると言うのは正確ではないように思います。

今回の記事はこれらのツイートの検証です。

「もともとマスクなんて月4億枚の市場」

個人的には「なんて」という言葉遣いが気になるのですが、マスクのもともとの需要についてはいくつかの報道で触れられています。

例年、マスク需要のピークは花粉症シーズンの3月で、その量は5.5億枚だという。

マスク不足解消は5~6月頃か「青天井の需要」に追いつかない政府の苦悩とマスクチームの挽回策

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は2月中旬以降、マスク増産に向けた設備投資を行うメーカーに補助金を出すなどの取り組みを行ってきた。これにより、3月は6億枚を超える供給ができたという。例年、マスク需要のピークは花粉症需要の高まる3月で約5億枚とされているため、1億枚の上乗せに成功した形になる。

なぜ政府は「布マスク2枚」を配るのか – ITmedia NEWS

ということでピーク時で月5.5億枚の市場であることがわかります。

ここの点はまだそこまで不正確ではないように思いますが、誤情報というのは正確な情報と不正確な情報がごちゃまぜになっていたりするのでまだ要警戒です。

安倍ちゃんは必死になって、たった2~3ヶ月で供給量を月7億枚にまで増やした

まず、この点について勝手にソースを補足している人が補足している内容を正確に引用します。

マスクについては、政府として生産設備への投資を支援するなど取組を進めてきた結果、電機メーカーのシャープがマスク生産を開始するなど、先月は通常の需要を上回る月6億枚を超える供給を行ったところです。更なる増産を支援し、月7億枚を超える供給を確保する見込みです。

令和2年4月1日 新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回) | 令和2年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ

これはどう読んでも、4月の頭に、4月中に確保する「見込み」を語っているのであって、実際に増やしたかどうかを判断できる話ではありません。

では、実際はどうなのか?まだ4月中ではありますが、NHKはこう書いています。

経済産業省によると、マスクの供給量は現在、月に7億枚を越える程度。2月時点の4億枚から比べると、かなり増えています。

マスク不足 なぜ解消しない? |サクサク経済Q&A| NHK NEWS WEB

ということで経産省は供給が7億枚を超えている、という認識であることが書かれています。
実際の枚数の検証は政府か業界からの発信に頼らざるを得ない以上、この数字が現在一番実態を示している可能性が高い数字というしかなさそうです。

ただし、これをすべて『安倍ちゃんは必死になって』頑張った結果であるというのはちょっと違和感があります。

そもそも、頑張っているのは安倍総理ではなく政府のマスクチームやマスクを生産するメーカーに関係する工場の人たちであるのにも関わらず、それを総理ヒーロー伝説に勝手にすり替えられているのはおかしい、というのは私個人の感想なのでそれはそれとして。

マスク供給量については政府が必死に増産している国内企業に依る増産以外の要素が存在しているのです。

それは中国からの輸入です。

世界的なマスクの生産地は中国で、以前は国内で流通するマスクの7割程度を中国からの輸入が占めていたんですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、一時ほとんどなくなりました。

その後、輸入が再開されましたが、中国からの輸入量は月に1億2000万枚程度で、以前と比べると少ない水準にとどまっています。

マスク不足 なぜ解消しない? |サクサク経済Q&A| NHK NEWS WEB

さらに、中国での新型コロナ被害が一段落したことから、2月中旬から徐々にマスクの輸入が再開された。経産省によると、4月1週以降は中国等から週に3000万枚規模の輸入を図り、達成されそう。

なぜマスク不足はいつまでたっても解消されないのか メーカーは設備増強でフル稼働、新規参入企業もあるのに・・・(4/4) | JBpress(Japan Business Press)

もともと55億枚のうち44億枚、つまり8割は輸入に頼っていたマスク供給だったわけで、いきなり国内メーカーのケツを叩いても限界がありました。

そんななか結局、3月から4月の1億枚の積み上げの殆どは中国からの輸入量で補われるのではないでしょうか?

この中国に頼る形での供給量増加は、正直安倍政権(というか安倍ちゃんインターネット応援団?)としては不本意だと思うのですが、どうなのでしょうか?

なのに転売ヤーのが週9億枚も買って吹き飛ばした

まず、「なのに」という言葉遣いからして、7億枚を転売ヤーがふっとばしたという時系列でツイートしているように思うのですが、そこが誤りです。

マスクの転売行為については、3月15日に施行された国民生活安定緊急措置法の施行令改正により禁止されています。
ですから4月の供給量である7億枚を転売ヤーが吹き飛ばすことはありえません(し、ましてや転売禁止後に発表した布マスク配布が転売対策である可能性などある訳ありません)

また、そもそも転売ヤーと9億枚の関係性は全く不明です。

ソースの補足を行っている人の記事は、有料部分が読めないのですが、Twitterにコピペしてる人から中身は察することができます。(本当はいけないんですけど)

少なくとも、ここには「転売」との関係の解説はないように見えますし、そもそも在庫が捌けた話は通常の販売での実績なので、転売ヤーが9億枚買ったという根拠としては、全く使えないのではないかと思います。

一方、9億枚という数字はこの記事以外でもいくつか目にすることがあります。

まず、政府関係者の発言として報じているのが、時事通信です。

政府関係者によると、1月最終週には週1億枚超を供給できるようになったが、それでも週9億枚に急増した需要に追い付いていないという。

進まぬマスク供給 政府対策に疑問の声―新型肺炎:時事ドットコム

この記事は2月の記事なので転売対策の話をしてはいるのですが(この記事で触れられている国民生活安定緊急措置法で転売禁止を行った後の世界が今です)、そもそも9億枚というのは普通に購入される需要全体の事を指しているわけで、転売ヤーが買ったという話では全くありません。

朝日新聞も9億枚という数字に触れていますが、その後転売対策をしても需要に月6億枚の供給では追いつかないという話をしています。

転売のせいで流通が歪んで必要なところに行きづらくなっていたというのはあるのでしょうが、それと9億枚はリンクするわけではないということです。

ただ、1月の1週間だけで9億枚が売れるなど、膨らんだ需要に供給が追いついていない。政府はネットのオークションサイトなどでのマスク転売を禁じるなど対策を打ったが、状況は改善しないままだ。関西地方のドラッグストアチェーンの広報担当者は「卸業者から割り当てられる分量は増えておらず、品薄の状況は改善していない」と話す。

マスク供給1億枚追加へ 品薄解消、業者「5月か6月」:朝日新聞デジタル

(追記 2020/05/09)

この記事を書いた当時は失念していましたが、この9億枚という数字が出た当時、春節などで、当時マスク不足になりつつあった中国の方がマスクを日本で買って中国に送るという流れがありました。これは中には転売ヤーも紛れていたのかもしれませんが、中国の需要が一部日本国内での需要増に転じたという消費するために買われている話であって、全てが転売ヤーではないという立証になると思います。

訪日客、マスク爆買い 1月のドラッグ店、前年の9倍 - 日本経済新聞
マーケティング支援のトゥルーデータ(東京・港)によると、ドラッグストアの1店舗当たりのインバウンド購入金額は1月、1年3カ月ぶりに増加した。マスクの購入が前年同月比で9倍に膨れ上がり、購買金額全体を押し上げた。新型コロナウイルスによる肺炎の...
「爆買い」でマスクが品薄 中国人観光客が発送? 新型肺炎拡大 | 西日本新聞me
新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、福岡市や北九州市など都市部のドラッグストアでは中国人らがマスクを大量に購入し、品薄状態が続いてい...新型コロナウイルスによる肺炎の拡大で、福岡市や北九州市など都市部のドラッグストアでは中国人らがマスク...

(追記終了)

一方で9億枚というのは、このような政府関係者談以外でも、転売が無関係なざっくりとした計算によって導かれていることを目にすることがあります。

現在、マスクは需要が供給を大幅に上回っている。安倍晋三首相は、4月には月7億枚を超える供給を確保する見込みだとしているが、全国民が1日に1枚使用すると仮定すれば1週間で9億枚が必要になる。全国マスク工業会の担当者は「到底需要に追い付く見込みはない」としており、あるドラッグストアの担当者は「今は商品を確保すること自体が難しい。値段が落ち着く時期は全く見通せない」とこぼす。

マスク続く品薄で店頭価格も高騰 1枚10円→80円超も

この全国民1人1枚計算というのは、マスクの需要に触れている記事にて、何度も見かける話です。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、例年ならマスクを着用しない人を含め、大多数の国民が1日1枚のマスクを着用するようになったため、需要が高止まりしているのだ。仮に1億2000万人の日本国民のうち1億人が1日1枚マスクを使えば、月30億枚は必要になる。政府関係者が「供給量が20億枚でも30億枚でも足りない」と漏らす通り、マスクの品薄状態解消は簡単な話でなく、菅長官も「品薄状態の解消には一定程度の時間を要する」と明かしている。

マスク不足解消は5~6月頃か「青天井の需要」に追いつかない政府の苦悩とマスクチームの挽回策

実際にどれだけの需要があるかというと、政府も把握できていません。

メーカーへの注文などから判断すれば、供給量をはるかに上回る需要があると見られています。例えば、国民1人が毎日1枚使うとなると、月に30億枚以上が必要になる計算で、作っても作っても追いつかない状況なんです。

マスク不足 なぜ解消しない? |サクサク経済Q&A| NHK NEWS WEB

しかし、こうして月に7億枚超のマスク供給体制を整えたとしても、1億2000万人の国民が1日1枚マスクを使えば6日しかもたない計算になる。

なぜマスク不足はいつまでたっても解消されないのか メーカーは設備増強でフル稼働、新規参入企業もあるのに・・・(4/4) | JBpress(Japan Business Press)

このように9億枚という数字は、転売抜きの話でも出てくる、本当に国民が欲しがっている可能性のある数字であって、この数字を転売と関連付けるのは、何も根拠がない上に、転売がなければ需要過多にはならないかのような誤解を生む行為なのではないでしょうか。

ちなみにマスク不足は根本的な需要過多の問題であるという記事として以下のものとかを読むと参考になるような気がします。

“店頭にいつでもマスクが置いてある風景”は、「店頭在庫」が十分にあるということを意味する。この図では、増産・供給すれどもすれども店頭在庫が高まるにはかなりの時間がかかることを示している。なぜなら、一般的な需要に、不安感からくる買いだめ需要が長い期間にわたって上乗せされると考えられるからだ。「家庭内在庫」である。

これは今回のトイレットペーパーの店頭在庫不足にも見られたように、モノはそろっていても、家庭内在庫が満たされるまで店頭での欠品が続く状態だ。家庭内在庫のニーズが強い分だけ、マスクはトイレットペーパー以上の長い期間にわたって、このタイムラグが生じる。

「今の需要自体が、平常時の10~30倍になっている。ここに家庭内在庫が上乗せされれば、30~60倍に需要が跳ね上がることも考えられる」。ある卸売業者は当分の間、品薄状態が続くことを懸念している。

自分の身の回りを見渡してみても、マスクをつけている人が普段の10倍以上になっていることは想像できる。平常時の月間マスク需要は、シーズンによって1億~4億枚といわれる。需要が10倍以上、家庭内在庫需要で30倍以上にも膨れ上がることを考えると、月間10億~30億枚が供給されても不足は解消されないことも想定できる。一部、報道されているように、中国からの供給が戻ったとしても、すぐさまマスクが普通に買える状態になるとは考えにくい。

「マスクの品切れ」が延々と続いている根本理由 多少の増産では爆発的な需要増に追いつけない | コロナショックの大波紋 – 東洋経済オンライン

布マスクで必死に対抗して国民にも助けを求めた

これ、転売対抗であるかのように書かれていますが時系列がおかしいというのは先に書いたとおりです。

一方、助けを求めているのは、あり得たとしても、転売対抗策ではなく、経産官僚がフェイスブックで発信したような医療関係者などにマスクを回すための協力要請だと思うのですが。

ただ、官邸周りはそんなことにはほぼ触れずに、医療関係者にはきちんとマスクを配布していると政府のマスク調達を誇ることを述べることが殆どで、マスク配布については明確にそれとはリンクさせずに「マスクが手に入らなくて困っている人がたくさんいる」「需要があるから配った」「マスク需要の抑制に有効」という話ばかりしているように見えます。

こんな感じで、安倍首相が少なくともマスク周りで何らかの助けを求めたことはないと思います。

このような『転売ヤーVS安倍総理』という構図は明確で受け入れやすいのかもしれませんが、実際に起きている自体への認識を歪めることにしかならないと思うので、事態はもっと複雑であるということを認識したほうが、回り回って政府への正当な評価につながると思います。

少なくとも「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と考えるよりは。

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