妊婦向け布マスク配布で起きた問題

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今回のコロナウイルスでの政府施策は、正直無責任であったり、目的が曖昧であったりするものばかりのように見えますが、その象徴として布マスク配布について検証します。

政府は、衛生面に問題がある布マスクが多数あったことにより、未配布分回収となっていますが、福祉施設に一人一枚、そして妊婦の方に毎月二枚布マスクを配布するという予定でした。

政府は布マスクの全戸配布のQ&Aにて、布マスクの効果について、このようにまとめています。

問3 布製マスクに効果はあるのですか?

布製マスクには以下のような効果があると考えています。

①せきやくしゃみなどの飛散を防ぐ効果があることや、手指を口や鼻に触れるのを防ぐことから、感染拡大を防止する効果。

②マスクの着用により、喉・鼻などの呼吸器を湿潤させることで風邪等に罹患しにくくなる効果。

③洗濯することで繰り返し利用することができるため、店頭でマスクが手に入らないことに対する国民の皆様の不安の解消や、増加しているマスク需要の抑制により、医療機関や高齢者施設などマスクの着用が不可欠な方々にしっかり必要な量を届けるという効果。

布マスクの全戸配布に関するQ&A|厚生労働省

③の文章が、全てマスクという言葉を使うことで色々ごまかしているように思うのですが「マスク需要の抑制により、医療機関や高齢者施設などマスクの着用が不可欠な方々にしっかり必要な量を届ける」という書き方は、市場で普段流通していた不織布マスクを意識した書き方のようにも読め、布マスクは需要を抑えるためのサブで、高齢者施設など重要な場面で使われるべきマスクは抑えられた需要により出回っている布マスクではないマスクであるように読める書き方になっているように見えます。

また、布マスクの効果の①の感染拡大防止効果の部分。感染拡大という言葉で、布マスクを着用している本人への感染防止効果と、布マスクをつけることによる他者への感染防止効果が並べて書かれています。
そして、様々な媒体の布マスクについての記事を読むと、飛沫防止効果は確実なものである一方、着用した本人の感染防止効果は、全く未知であるのだろうと思われます。
(だから、政府は「手指を口や鼻に触れるのを防ぐ」効果としているのでしょう。)

ウイルスの侵入を防ぐ効果はほぼないが、聖路加国際大学の大西一成准教授(環境疫学)は、布マスクでも「つけないという選択肢はない」と話す。一部の大きい飛沫が飛ばないようにすること、鼻やのどの粘膜を保湿・保温してウイルス感染を防ぐといった点は期待できるという。

布マスクの効果は?ウイルスの侵入防げずとも「つけない選択肢はない」 | ハフポスト

この点、福祉施設につなぎとしてマスクが配られているのは、実際に使えたかどうかは別として納得はします。ただし枚数は明らかに足りないと思いますが。

これに先立ち3月、重症化しやすい高齢者の感染予防を念頭に、介護施設や福祉施設で働く職員や利用者に1人1枚ずつ、約1300万枚を配った。

介護・福祉施設に先行配布の「アベノマスク」早くも評判散々な訳 – 毎日新聞

一方、妊婦さん向けの配布は、妊婦さん本人だけがつけても、妊婦さん自身への感染防止効果は非常に限定的である可能性が高い事を考慮しても、本当に妊婦さんへの感染を防止したいのであれば、福祉施設のように、妊婦さん本人だけではなく妊婦さんの周囲の人が着用できるような枚数を配布する必要があったように思います。

そのような「なぜ配るのか」という目的を政府は「安心」という言葉でごまかしているように見えます。

その上で、毎月2枚というのは、安心するには多少心もとないものがあるように思いますし、実際は安心できないような品質のマスクが届いている可能性すらあるのです。

その一方で、実はそもそも、妊婦さん一人2枚という枚数に足りない枚数しか政府から届いていない自治体がいくつも存在しています。

いくつかの自治体のホームページや、報道に、そのような記述が存在します。

国が妊婦さんに布マスクを1カ月2枚ずつ、基本的に9月まで郵送すると通知してきました。一家庭に2枚の布マスクとはまた別の話です。

 区にいつ届くのかはっきりしなかったため、とりあえず独自に妊婦さんに対し、災害用の備蓄品の中から1カ月分として30枚の不織布マスクの送付を決め、現在準備を進めています。発送の終了は5月中旬頃の予定です。

 そこに4月21日、国からマスクが届いたと担当部署から連絡があったのですが、届いた枚数は2770枚。4月1日現在の当区の妊婦さんの数は2782人。また月平均の妊娠届出件数は450人ですから、それを加味してお一人に2枚お送りするために必要な枚数は約6500枚となり、絶対的に足りないのです。

 まずは先行して1カ月分の送付を決めていて良かったと、胸をなでおろしました。国の担当も大車輪で進めてくださっているとは思いますが、「今後の追加は令和2年度の補正予算成立後」とはいうものの、いつ、何枚届くのか、現時点でははっきりしていません。

 そこへ「国のマスク配付は一時中止せよ」との通知が。何が何だかわかりません。区独自の配付は粛々と続けますので、ご安心ください。

妊婦さんに不織布マスク1カ月分を独自にお届け|足立区

 布マスクは、妊娠中は服薬などが難しく、感染予防が重要なため、1日に国が全国の妊婦に配布を決めた。今回は市に2千枚が届けられた。国は今後、一般家庭用に配布する布マスクとは別に、妊婦1人につき毎月2枚を配布するとしている。

 市ネウボラ推進課によると、市内の妊婦は現在約4千人。

市内の妊婦に布マスク配布 福山市 1人2枚ずつ郵送:山陽新聞デジタル|さんデジ

市健康未来こども課によると、厚生労働省から17日、布マスク110枚が届いた。「妊婦1人当たり月2枚」と聞いていたが足りず、「まずは、臨月に近い順に55人に2枚ずつ送る」と決めた。

不織布マスクを妊婦に 政府の配布中断で新潟・小千谷市 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

※国が一括購入した布製マスクを市町村において妊婦さんに配布することになりました。妊婦さん一人に対してマスクを毎月2枚ずつ配布する予定ですが届いたマスクに限りがあり、すぐにすべての妊婦さんに配布することができない状況です。多くの妊婦さんにお届けできるよう、1回目の配布は1人1枚とさせていただきました。マスクの準備が整い次第、順次お渡しします。ご迷惑をおかけしますがご理解いただけますようお願いいたします。

【マスク配布のお知らせ】妊婦さんへ マスクを配布します。 | 岩倉市

高知市では、第1回の布マスクの提供を受け,以下のような内容で配布を行うこととしましたので,お知らせします。

■配布枚数 妊婦お一人につき1枚

■新たに妊娠が判明した方への配布方法

   妊娠届出時に,母子健康手帳と一緒に配布

■すでに妊娠届を提出された方

   郵送による配布(4月21日発送予定)

 今回提供されたマスクは、すぐに全ての方に予定していた枚数を配布できる数ではありませんでした。十分ではないと思いますが,ご理解いただきますようお願いいたします。

妊娠中の方等への布マスクの配布について – 高知市公式ホームページ

国としては「一人二枚」と発表しながら、自治体には不足している数しか配れず、結果として、自治体ごとに誰に何枚配布するか判断を投げる形になってしまった実態が見えてきます。

また、保健所はコロナウイルスに関するあらゆる施策の最前線に位置する可能性の高いであろう役割を担っている場所です。そのせいで全国の保健所がパンク状態であることが報じられています。

保健所は電話相談、検体運搬、感染疑いのある人の経過観察、感染経路・濃厚接触者の調査などに当たるが、全国の保健所の数は行政改革で94年の847から20年には469へと半分近くまで減少。感染症を扱う保健師は人口40万人規模の東京都葛飾区で4人、大阪府枚方市で5人しかいない。「土日の半日だけ休むだけでぶっ通しで働いている」(白井千香副会長兼危機管理委員長)。マンパワーが決定的に不足している。

保健所には乳児検診、高齢者のロコモ予防などほかにもさまざまな業務があるが、ほとんどが中止、延期。PCR検査は、陽性反応者の受け皿が不十分なため、安倍首相が表明した1日2万件からほど遠い数字が続く。「市民との板挟みになっている。叱責(しっせき)罵倒などモチベーションが保ちづらい」(白井副会長)。厚労省は電話相談業務の一部を民間委託するなど業務削減に乗り出したが、頼みの綱の保健所がパンク寸前だ。

「叱責、罵倒」保健所がマンパワー不足でパンク寸前 – 社会 : 日刊スポーツ

一方、今回の布マスク不良品問題では、自治体側に検品作業をさせることになり、あろうことか保健所が布マスク検品作業などの余計な?作業を担ってしまっている様子も流れてきました。

当サイトでは首都圏近郊の複数の自治体に対して、妊婦用のマスクに関する検品作業を行っているかを聞いた。千葉市保健福祉局健康福祉部健康支援課の担当者は次のように話す。

「今、まさに検品作業を行っているところです。厚生労働省の指示では『不具合があるものを返品してほしい』ということでした。つまり、自治体で検品して『返品する不良品』を見つけなくてはならないということです」

 東京都福生市福祉保健部健康課の担当者は「当市では配布を行う前にあらかじめ検品を行いました。箱だしから封詰め、枚数チェックなどの作業の必要があり、一通りチェックしたところ不具合はありませんでした」と話す。

(中略)

埼玉県内の保健所関係者は次のように憤る。

「自治体の大きさによって業務量も異なるとは思いますが、当市では数千枚のマスクの検品を行っています。毎日、新型コロナウイルス関連のさまざまなお問合せや病院との折衝、感染源の特定や消毒計画の策定など戦場のような有様なのに、なぜ自分たちは検品をしているんだろうと腹が立ちます。検品するのはメーカーの仕事で、それを監督するのは政府でしょう。

 例えば大地震や大津波などの大規模災害時に、国が緊急支援物資として不良品の医療機器や不潔な包帯を送付した上で、『その中に不良品があるかもしれないから現場の職員で検品して使って』という指示をしたらおかしいでしょう? そんな暇が現場にあると思っているんでしょうか。

 国がメーカーに対し、責任をもってちゃんと清潔な製品をつくり出荷するよう監督指導してほしいです」

アベノマスクで不良品続出、戦場と化した「保健所」に大量の検品を“押し付け”…現場の怒り

大分市保健所には先週、2100枚が届いていてきょうは点検作業が行われました。この中には黒い染みがあったり髪の毛のようなものがついているといった不良品がおよそ640枚確認されました。大分市保健所の鈴木由美さんは「気持ちよく妊婦さんに受け取っていただけるように努力していきたい」と話していました。大分市保健所は独自に行っている妊婦へのマスクの配布を期間を延長して行うことにしています。なおTOSが県内全ての市町村に取材したところ国から届いたマスクあわせておよそ4300枚のうち2割近くのおよそ80 0枚が不良品だったということです。

妊婦用“アベノマスク”県内でも約2割が不良品|TOSニュース|TOSテレビ大分

(追記 2020/05/01 14時44分)

この点について、政府としてはすべて送り返してもらって国で検品するということにするようです。しかし、これもただでさえ忙しい官僚が借り出されるのか、新たにバイトを雇うのか・・・?

市町村の負担を減らすため、発送済みの47万枚はすべて国に返送させて検品する。加藤勝信厚労相は閣議後会見で「少しでも問題があるものは国が検品ですべて排除する」と話した。

妊婦用マスク、国が検品し配布へ 不良品は4万7千枚  [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

(追記終わり)

なぜ、こんなことになったのかは、未配布分を回収した会社のプレスリリースを読むと、なんとなく察することができます。

興和株式会社は、3 月 5 日付のプレスリリースでお知らせしたとおり、政府からの要請のもと、広く海外に展開している繊維事業の経験を活かし、中国を中心とする海外の生産協力工場を活用した布製マスクの緊急生産を推進してまいりました。

こうした中、今般、政府へ提供した布製マスクの一部から不良品に該当する旨の報告を受けました。当社といたしましては、この度の事態を真摯に受け止め、未配布分につきましては全量回収の上再検品し、生産協力工場における検品体制への指 導強化を行うと共に、日本国内における全量検品を行ってまいります。

なお、弊社が国内で生産・販売しております「三次元マスク」シリーズにつきましては、医薬品に準じた製造設備のもと、徹底した衛生管理を行った日本製の不織 布マスクです。弊社は引き続き、皆様に安心・安全な商品としてお届けしてまいり ます。

布製マスク(ガーゼマスク)の対応について

今回、話題となっています厚生労働省向けの布製マスクにつきまして、弊社の立場を以下の通りご説明致します。

1.受注の経緯に関して

政府は国内マスクメーカーに生産を要請したものの、必要とする数量に対して十分な量を賄うことができませんでした。そこでマスクメーカー以外の企業にも生産要請を行い、その一環として当社にも強い要請がありました。弊社としましては国家の緊急事態でもあることから、新型コロナウイルス感染拡大防止の一助になればと考え、対応をさせて頂く事と致しました。

2.生産に関して

緊急事態により、世界的にマスク需給が逼迫し、国内のマスク専用工場には生産余力が全くなく、海外においても生産スペースの確保は極めて困難な状況となっておりました。かかる状況下、当社のネットワークにて海外の衣料品縫製工場に生産スペースを特別に確保しました。尚、製品の均一性を保つため、国内マスクメーカーより仕様書と生地の供給を受け、それに基づき生産を請負っております。

3.検品体制に関して

緊急性が求められていることから、当初生産分は縫製工場での自社検品後、厚生労働省に納品を行いましたが、同省より、各社から調達をしたマスクの中に不良品が発生しており、検品を強化するようにとの指示がありました。当社は未配布分を全量回収すると共に、今後納品するマスクは、現地縫製工場における通常の検品に加え、輸出前の外部業者による検品、さらに日本に輸入後も当社社員も数十名立ち合いのもと、専門業者による検品と三重の全量検品体制を敷き強化を図っております。

厚生労働省向けの布製マスクについて|プレスリリース|伊藤忠商事株式会社

両社とも、政府からの要請であること、本来はマスクを作る態勢ではないこと、緊急性を重視したこと、を強調しているように思います。

これは、政府が急かしてそれに答えた結果、検品がずさんになった可能性が高いのではないでしょうか?

複数の報道も、そのような見方に沿っているように見えます。

複数の衛生用品メーカー社員によると、マスクなど衛生用品を新たに作る場合、試作品を高温・多湿の状況に置き、カビが生えないかなどを半年ほどかけて確認してから納品するという。今回は受託から納品までの期間が短く、「数カ月で安定した品質の衛生用品を作るのは、よほどノウハウがないと難しい」(同社員)という。厚労省幹部は「配布時期ありきだったため、検品がおろそかになり、不良品が出てしまったのではないか」と話す。

政府マスク、衛生管理難しく 期限ありきの指摘 不良品で回収:朝日新聞デジタル

スピード重視の政府がマスクメーカー以外の企業にも生産を要請して急がせ、結果として不良品が見逃されたのが実情だ。費用対効果を疑問視する声など配布前から何かと不満が多く、「アベノマスク」とやゆされている中、今回の「失態」で政権の求心力にも影響が出かねない情勢だ。

 「政府からとにかく早く納入をと要請され、検品作業を最低限にしたところ、不良品を見逃してしまった」。納入業者のうち、ある1社の広報担当者は24日、毎日新聞の取材にこう答えた。マスクの生産は「政府からの強い要請」と繰り返し、安倍晋三首相の肝いりで「アベノマスク」とやゆされた取り組みのいびつさを言葉の端々ににじませた。

焦点:新型コロナ 未配布マスク回収 早さ重視が裏目 – 毎日新聞

さらに、妊婦用に届いた布マスクに汚れの付着や混入物が8千件近くも確認される事態を招き、政府は自治体に対し、配布をいったん停止するよう通知するしかなかった。 

 政府関係者によると、不良品は東南アジア製で、現地の衛生基準では医療品扱いとならず、一般の布製品と同じ分類だった。品質を懸念する声も出たが、スピード感を重視する官邸サイドに担当の厚生労働省も抑え込まれ、問題発覚後もすぐに全品回収とはならなかったという。官邸筋は「首相案件だから、厚労省も強く主張できなかった」と推し量る。 

肝いり「アベノマスク」誤算続き 野党、国会で追及へ

Twitterでの一部で、興和と伊藤忠がブチギレたなんて書いているツイートが流行していましたが、このような流れを見る限り、ブチギレているとしたらその先は「不良品だ」と指摘した側ではなく、急かすだけ急かしたくせにいざ不良品が出たらメーカーを表に出して盾にしようとしている官邸じゃないんですかね?

それこそ世間知らずじゃなければ、依頼者に期限を急かされて必要な手順をかっ飛ばして無理させられることは、あり得る構図であることくらいわかると思うんですけど。

こうやって、マスク不足解消のためと無理をさせて急かした結果、実際のマスク配布はどんどん遅延し、各地の保健所等の行政に余計な負担をかけた、というのは政府の失敗ではないのでしょうか?
それとも他に手段がない、すなわち、この道しかないから仕方ないのでしょうか?

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