「生まれた年で分類した犯罪率」はどこに?

この記事のアクセス数
20PV
この記事は約15分で読めます。
記事内にアフィリエイトリンク等の広告が含まれています。

前提

犯罪について、しやすさとかを特定の属性などに絡めて語ることは、偏見を煽り、差別につながることが多いです。気をつけてください。この記事で書いていることを使って差別をするのはやめてください。

また、犯罪について特定の属性だけに原因があるとすることは、よほど丁寧にやらないと、そもそも結果論すぎるというか、個々の犯罪の背景を透明化するような議論になり、犯罪抑制に繋がるとは思えない、偏見を煽り特定の差別・犯罪を正当化するのが目的としか思えない議論になるだろう、と思うことを先に述べておきます。

民俗学者の赤坂憲雄は、著書『排除の現象学』第5章「分裂病/通り魔とよばれる犯罪者たち」のなかで、次のように書いている。 わたしたちは犯罪という結果からさかのぼって、かれがつねに・すでに犯罪へと宿命づけられた異人であったことを発見する。非日常的できごととしての犯罪は、そうして物語の定型に包摂され、日常意識の彼岸に逐い放たれる。マスコミの流布する大方の犯罪報道はまさに、この過剰な物語への欲望に支配され方向をさだめられている。負の理想像の強迫によって、犯罪者はいっそう犯罪者らしく造型されねばならない。

犯罪報道にみる差別意識~沖縄、奄美に向ける「日本人」のまなざし~

書いたきっかけ

こんなツイートを見ました。

そもそもこのアカウントは、ロマン優光氏のコラムにて『海乱鬼はRTしないが、もへもへはRTする人』と書かれるくらいには粗雑な言説を巧妙(?)な形で撒き散らすアカウントなのですが。(海乱鬼とは、現在は日本保守党党員らしい、デマ常連のネット右翼といえるツイッターアカウントです)

自分ではそういった発言をしないが、お気に入りもRTもアンチフェミニズム的なものでいっぱいな人。海乱鬼はRTしないが、もへもへはRTする人。 そういうタイプの人(高学歴、高収入、家庭にも恵まれているような人もいる)が、初期に暇空氏をRTしながらも自分では発言はせず、便乗組が暴走したりして雲行きが怪しくなると、まるで最初から関係がなかったかのようにサッと立ち去るという見事な立ち振舞いをしていたわけで、ある部分では今回Colaboと和解したような人たちよりもタチが悪いと私は思っている。

「暇アノン懺悔録」について:ロマン優光連載262 | ページ 5 | 実話BUNKAオンライン
当時のえりアルフィヤ氏に対して一部右翼はひどい態度だったねって思い出
もへもへ「山本直樹は弾圧される側に回ってない」
散々有害図書指定食らってる山本直樹=森山塔先生が〝弾圧される側に回ってない〟?? ちょっと何言ってるか分からない……
もへもへ村のみに伝わる、普通(?)のママが、息子が隠し持っていたエロ本を見つけた日の夕飯には赤飯を出す奇習
普通とは・・・?そんなことより赤飯って美味しいよね。
「英語の勉強の本がケモナー向けでエロいw」→作者「性的な意図で作ってるとか言うのやめて」→もへもへ「やれやれまーたフェミかw」
更新日:6月18日16時31分
もへもへ氏の「事実婚は実質的な一夫多妻制」という説明はデタラメ
更新日:12月29日16時18分

このような方のツイートなのですが、多分やりたいことは、他の世代(日本赤軍云々言ってるのが前フリとしてあったようなので、団塊世代批判)を下げるために、氷河期世代の被害者性を強調し利用するみたいなやつです。(団塊左翼が云々、みたいな認識なんだろうが)

で、この「生まれた年で分類した犯罪率」ってなんのこと?と思って色々調べたのでまとめ。

氷河期世代

氷河期世代の定義付け。

就職氷河期世代とは、就職氷河期に新卒で就職活動をしていた人たちのこと。1970年〜1982年、または1984年までに生まれた2021年現在37歳〜51歳の年齢の人たちを指し、別名「ロストジェネレーション世代」とも呼ばれます。

就職氷河期(ロスジェネ)世代とは?【年齢・いつ生まれ?】 – カオナビ人事用語集

色々みるに、ここにある1970〜84年生まれ(昭和45〜59年生まれ)が該当、というのがよくある括り方のようです。

犯罪率とは

犯罪率ってどういう数字を使うんだろう?と思ったら、(見つけたときこんなのわざわざホームページに載せてんのいいのかな?と思ったのですが)市町村別犯罪率の地図というのを載せています。

市区町村別犯罪率(地図)

ここでは『人口1,000人あたりの刑法犯認知件数』を犯罪率と扱っているので、多分そういう人口〇〇人あたりというのが犯罪率と見ていいでしょう。

資料の中身

もへもへがリンクを貼っているエクセルファイルは、警視庁のホームページにある『刑法犯に関する統計資料』の令和3年版です。

刑法犯に関する統計資料|警察庁Webサイト
https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/R03/r03.zuhyosakuin.htm

もへもへ氏のツイートに対しては、1枚目のエクセルシートの資料の年次を『生まれた年』と勘違いしているのでは?という指摘がいくつも寄せられています。

実際、警視庁ホームページにあるPDFに載っている、年次別のやつを折れ線グラフにしたものを見ると、氷河期世代となる方々が生まれた年の近辺が見事に凹んでいるので、この年次が生まれた年とすると『氷河期世代が顕著に低い』とする主張と見事に合うんですよね。実際はその年の認知件数の表なので主張とは全然違うわけですが。

で、エクセルシートの2枚目には生まれた年での分類という概念に近い『年齢層別検挙人数』というのがあります。

ただ、これだと複数年にまたがって数字を確認しないと主張が正しいのか確認しないといけませんし、枠も5歳ごとに区切っていてあるので『氷河期世代』というのだけを区切って見るというのは中々難しいのではないかと思います。

また、この年齢はPDFに掲載された定義を見ると『検挙人員の年齢は、犯行時の年齢とした。』なので、検挙された年に何歳であるかというのを確認する方法としては明確に誤りなのではないかと思いますし、刑法犯認知数と検挙数ではまた意味が変わってきます。(これについて関連する話を後ほど)

ちなみに令和に入ってからの数字(令和3年まで)をグラフにするとこうなります。(棒グラフ、人口10万人当たりの数字を比較、検挙年次に氷河期世代が含まれる年齢区分の色を紫にした)

これだけでは何も言えないようにみえます。

では、他の世代と比較して見れるのか試すためにも、令和3年の10年前(2011年)と20年前(2001年)の数字もグラフにしてみます。

そもそも10代から20代前半のの検挙数が違いすぎてあれですが、この数字だけで他の世代と比較してどうこう言うのは、よほど膨大な年代を細かく比較しないと困難であるように私には見えます。

なんでこの2枚目のシートを見て「氷河期世代顕著に低い」と何も前提を置かずに言ってるとはちょっと考えづらいのではないかと思います。

検挙数を左右するもの

別な資料の話になりますが、少年犯罪の検挙数を見ると平成9年近辺に山があります。今回グラフにした平成13年も山に含まれる年代です。

(画像は警視庁の『令和4年中における少年の補導及び保護の概況』のpdfの2ページ目)

少年非行及び子供の性被害|警察庁Webサイト

(『刑法犯少年……刑法犯の罪を犯した犯罪少年で、犯行時及び処理時の年齢がともに14歳以上 20歳未満の少年をいう。』という定義です。

この平成9年近辺には、少年の範囲に氷河期世代の一部が含まれるのですが、この検挙数が上下する理由には、犯行数が多かったという理由以外の理由があるのでは、と言われています。

その理由とは、検挙する警察側の意思や能力です。

少年犯罪における「戦後の3つの波」は、あたかもそれが客観的な少年犯罪の歴史的動向であるかのように説明されているが、そこには、相談や届け出、事件の受理から補導・検挙に至るまでの取り締まる側の活動状況が大きく反映されているのである。これが、犯罪などに関する統計的データの2つ目の特性である。図2の人口比の曲線にみられる「第4の波」も、むしろ警察の取り締まり強化によって生じたものである可能性が高い。

青少年問題をめぐる虚実 : 忘れ去られた<進化>への問い

検挙数がどうなるかは、警察側の事情で左右されるため、この数字をもって犯罪しやすいかどうこうということは偏見を強化する可能性が高いと言えます。(警察の偏見が特定の属性の検挙数の多さとして現れることがあるわけで)

このような警察の取り締まりの姿勢がどうだったのかという背景を前提にして検挙数については語る必要がありますので、もし本当にもへもへが検挙数を見て、世代がどうこう言っていたとしたら、それはそれで粗雑な議論であると言えるでしょう。

「生まれた年で分類した犯罪率」についての結論

ということで、多分もへもへが出したエクセルには「生まれた年で分類した犯罪率」は存在しません。なにか幻を見たのではないでしょうか。

(というか、エクセルにシートが複数あるんだから、どれのことかぐらい指定した方がいいのでは…)


ここからはツイートの他の部分など、関連することで気になったことをとりとめもなく書いています。

『キレる老人』と差別的な見方

もへもへは『キレる老人にはならない』理由として『社会にいじめられているのに現在犯罪率が低いこと』を持ち出していました。

この『社会にいじめられて』いるということを前提とすると、果たして『キレる老人にはならない』とすんなりと言えるのか?ということになりかねない気がします。ただし、これは、とても差別の強化につながる見方なのでもへもへへの反論とは見ないでいただきたいのですが。

もへもへ自身も「あれだけ社会にいじめられてこれ」と述べているように、いじめられたときに「反撃」というものが思いつくというのは一般的なのではないかと思います。

これを、現在行わないなら未来永劫行わないと考えるのは、なにを根拠に述べているのでしょうか。

「キレる老人」という言葉をもへもへは持ち出していますが、このキレる老人、なぜ起きているかという理由の推察はいくつもありますが、特に触れられるのは加齢による脳機能の低下です。

とはいえ、高齢者の「暴行」は年々増加。その背景には、脳の前頭葉の機能低下がある。前頭葉の中でも思考や判断、計画、抑制など人間らしい合理的な判断をする「前頭連合野」という領域は加齢とともに衰える。それにより高齢者は怒りを抑制しにくくなると考えられるという。

だが、暴行は、人にけがを負わせる「傷害」に至らない段階だ。川合さんは、こうした実相を丁寧に説明し、高齢者の暴行をことさら問題視する社会のありように疑問を投げ掛ける。

高齢者排除してない? 「キレる老人」の実相に迫る 川合伸幸さん(名古屋大大学院准教授):東京新聞 TOKYO Web

『怒りを抑制しにくくなる』と聞くと、私は「あれだけ社会にいじめられてこれ」な現状だからこそ、怒りを抑えて高齢者になり、抑えてきた怒りを抑えられなくなり、キレる老人と化す可能性があるのでは?と思ってしまうのです。

ちなみに、こういう怒りを蓄えているからヤバいみたいな見方をしたうえで、(怒りに過敏になり)蜂起を恐れて『だから死ぬまで押さえつけてないと…』『先にやらないと…』となってしまうのが、差別的な弾圧が終わらない理由だったり差別的な虐殺が起こる理由だったりします。

関東大震災時の朝鮮人虐殺にもこの発想のような考え方が、虐殺を促すことに繋がったのでは?とする言説があります。

大震災が起きた1923年は、韓国を日本が併合してから13年後。日本人が朝鮮に持つ差別の意識、それに抑圧された朝鮮の人々が「いつか日本国内でも立ち上がるのではないか」という恐れなどが指摘されていて、植民地主義が背景にあったことは、否定できません。

関東大震災の朝鮮人虐殺…“ファクト”否定したい人たちを助長する都知事 – RKBオンライン

1880年代以降、日本は10年ごとに海外で軍事行動をしていて、朝鮮が舞台になっていた。植民地化の過程では、民衆蜂起した朝鮮人を虐殺している。そこから、日本に従わない朝鮮人を暴徒だといって弾圧を始めていったんです。朝鮮に対しては、一貫して自分たちに従うものだという態度で接している。

その中で、日本からの独立を目指す3・1運動(1919年)があっても、日本は非論理的な暴徒の動きとしか見なかった。実際は、3・1運動の独立宣言を読むと、とても理性的で、日本を憎んでいるのではなく、東洋平和と日本と仲良くするためには朝鮮が独立した方がいいと書いている。その後、闘争の中で朝鮮人が爆弾テロを起こすようになると、さらに危険だとみなすようになっていった。

関東大震災の朝鮮人虐殺にどう向き合うか 東大・外村教授に聞く「事実として語り継ぐ」 小池知事の追悼文不送付は…:東京新聞 TOKYO Web

朝鮮を支配しようとする日本と、これに抵抗する朝鮮の人々。

古くは日清戦争から震災間際のシベリア出兵まで、抵抗と弾圧が繰り返される中で、日本社会には「不逞鮮人」のイメージが根付いてゆきます。

「祖国へ帰れ、お前らはゴミなんだよ」一変した慰霊と伝承の公園、関東大震災100年 デマと朝鮮人虐殺から学ぶこと【報道特集】 | TBS NEWS DIG (3ページ)

というように、「あいつらいつか暴れる可能性があるぞ」という意味になる私の指摘は、差別・迫害・いじめの連鎖につながるような考え方でもあります。

しかし、私はその連鎖を望むわけではなく、被害の回復による負の連鎖の終結を望んでいることを明記します。(一度負った被害は容易に回復できないのは当然ですが、回復を諦めてはいけないでしょう)

自己責任

もへもへは「どこぞの世代と違って自己責任で黙って死ぬ」と書いています。

ここでいう自己責任というのは「自分に原因がある」「自分が悪い」「他人に迷惑をかけてはいけない」と考えることを指していると思います。

気になるのはどうもこの文での「自己責任」が、ネガティブな響きではないように見えることです。「どこぞの世代は自己責任と思わないひどい世代」と言いたいように見えますし、自己責任を「迷惑をかけない慎ましさ」みたいな誇らしいニュアンスで使ってるように見えます。

過去に福田康夫が述べた、自己責任は当然の配慮というような感じというか。

拘束されたのは、ボランティアの女性、取材で現地入りしていた男性のジャーナリスト、高校卒業後に実情を知るために入国していた若い男性の3人。当時、官房長官だった福田康夫が、彼らについて、参議院本会議でこう述べている。改めて読むと、この冷淡さが怖い。それとも、彼の言っていることに理解を示す人もいるのだろうか。

「被害者になった方々には誠にお気の毒であり、無事救出されてこれほど喜ばしいことはありませんが、御本人たちの配慮が足りなかったことは否定できません。自己責任というのは、自らの行わんとする行動が社会や周りの人々にどのような影響を与えるかをおもんぱかるということであり、社会人としては当然の配慮であります。御指摘のように、NGOの意義、戦争の報道の意義といった議論以前の常識に当たることだと思っております」(2004年4月21日/参議院本会議にて)

この40年、日本社会をひたしてきた「なんかいやな感じ」を言葉にする(武田 砂鉄) | 現代ビジネス | 講談社(2/5)

これを飲み込み、他人に当てはめることで、自己責任による苦しみより、他人に迷惑をかける他の世代より我が世代はましだという優越感?誇り?を優先しているように見えます。

一方、自己責任という概念には「自責」「他人に迷惑をかけるな」だけではない作用があるように思います。

それはひろゆき論で書かれていたこの文章を読むと見えてくるのではないでしょうか。

ここに見られるのは、ネオリベラリズム、もしくはリバタリアニズムに特有の考え方だと言えるだろう。公的なものを信任せず、自己責任に基づく市場競争を通じて自己利益の最大化のみを追求しようとする立場だ。

〈特別公開〉ひろゆき論――なぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのか | WEB世界

自己責任という概念は「他人に迷惑をかけない」だけではなく、むしろ「自分が最後は責任を取るからなにしてもいいでしょ」みたいな自己防衛的な考え方や、「他人を騙しても騙された人の自己責任でしょ」みたいな、そういう考え方を導く考え方のようにも私は思います。

現在は『自分が悪いと諦める「自己責任」』だとしても、これが『他者の要素を排除するための「自己責任」』に転化する可能性は十分あると私は思います。

そうなった場合、「自己責任で黙って死ぬ」というのがすんなりと繋がらなくなる、『「自己責任」だから「黙らない」』になる可能性があるように思われます。

また、「自己責任」の使われ方は、他人に厳しい、ということを指摘する文章もいくつか存在します。

自己責任論にはある種の中毒性があります。自己責任とはつまり「自らに起こる苦難を、原因から解決策まで自ら采配できる強さ」を求める言葉であり、自分が実践できているか否かに関係なく、この言葉を追い求めることで自分はたくましい人間なのだと思い込むことが出来ます。「想像上のたくましい俺」は魅力的です。人間とは弱くて当然の生き物なので、易きに流れて強い言葉にすがりつくのも宜なるかなといった具合です。

自己責任論は本当に「想像力が欠如」しているのか? – ねとらぼ

似たようなケースは、チーム制の調査やレポート制作時にも見られます。「欠席した人のフォローをするのは納得がいかない。自己責任でよいのではないか」「チームレポートを怠けた人は、自己責任として低い評価でよい」。発言するときの彼らの口ぶりから、「自己責任」は実社会における自明のルールと認識されているようです。 だからといって、彼らが「自己責任」を全面的に支持してるかといえばNoです。「自己責任」論を他者には課しながらも、自分に適用されることには、大きな不安や恐れを抱いています。

(略)

実社会と接触が少ない学生に多いのですが、断片的な情報のみで過剰にシビアな実社会イメージをつくりあげる傾向にあります。そして、そのシビアさを嫌忌しながらも、ときに自明のルールとして他者に当てはめて、自分の社会人エートスの優位性を誇示しようとします。それは結局のところ、彼らが厭う過酷な競争社会の維持に荷担しているように私には見えるのです。

第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ | 株式会社 日本経営協会総合研究所

自己責任を他人に当てはめるとき、自己に甘く他人に厳しいことになる、というのは、もへもへが『自己責任による苦しみより、他人に迷惑をかける他の世代より我が世代はましだという優越感?誇り?を優先しているように見え』たことと関係があるように見えます。

このへんのような自己責任という概念の使い方をしてるのを見て、私は「自己責任で黙って死ぬ」というのは本当ですか?と思ってしまうのです。

(ちなみに黙って死ね、とは思っていません。自己責任だからこそ騒ぐとか、そもそも自己責任ではないと主張するとか、様々な黙らない方法をとることはおかしくないと思っています)

コメント

タイトルとURLをコピーしました