とあることを調べていたら『K-POPが “本当に” 日本や世界で人気があるのか気になったので調べてみた』というタイトルからしてろくでもなさそうなブログ記事を見つけました。
(そもそも「本当に」とかやる時点でね)
で、中身を見てみたら
「当記事の目的は “韓国カルチャーにハマりかけている方々” に向け “ブームの裏側” を知ってもらう(警鐘を鳴らす)」とあり、裏側とはなにかというと「 “反日左翼メディア” が」とか「 “小中華思想” “事大主義” が」「韓国という国の体質が」みたいな嫌韓テンプレートを、それっぽい数字とともに主張する内容でしかなく。
そもそもこの人の別な記事では『いわゆる慰安婦(売○婦)問題。いわゆる徴用工(募○工)問題。』と言っていて選書も含めてそういう界隈が情報源である偏見が丸見えなのですが。
挙げ句ヤフコメのヘイトスピーチ対策と思われる動きに対して『これ、一体どこの国のニュースサイトなんでしょうね。』とか言ってるわけで。
結局ここで言う『日本人ならではの美的感覚』って「韓国を汚い・醜いと思うこと」なんじゃないかと思ってしまう中身でしかありませんでした。

で、冒頭で取り上げた記事内でこの人の偏見が一番丸見えになるのがKPOPと政治という見出しからはじはる一連の文章で。
- 『(中韓の関係は)”レッドチーム同士の内ゲバ”』
- 『ニューヨーク・タイムズは日本の『朝日新聞社』と提携関係にあり、同社の東京本社ビル内に東京支局を設けている左翼メディア』
- 『地上波メディアでコロナ第3波に関する報道をやたらと見かけるようになりましたが、巷では「視聴者の恐怖を煽ることで、バイデン候補ゴリ押しの件から目を背けさせようとしているのでは?」との声も』
- 『”色々なものをうやむやにすることで内側から日本を乗っ取ろうとする” 勢力が日本国内にうじゃうじゃ存在する』
- 『K-POPカルチャーと政治は深く結びついています。しかも、よりによって “共産主義” 陣営と。』
- 『 “日本の若年層・年配層を思想誘導するため” に市場の大きい日本をピンポイントで狙い撃ちしてくる』
- 『あなたが純粋な気持ちで払ったお金が、あなたの住む町を侵略する資金源になっていたとしたらどうしますか?共産主義思想を持つ国のカルチャーを応援するということは極端な話、そういうことなんです。』
- 『あちらの工作員なのか洗脳済みの日本人なのか分からない』
- 『スイス政府(スイス国民保護庁)が1969年に発行・各家庭に配布した冊子『民間防衛』の日本語訳』という存在するのかわからないものを持ち出す


結局このブログの芯にあるのは陰謀論なんですよね。このブログ書いてる人の『常識』になっている陰謀が貫かれてるんです。
(そもそも韓国をシンプルに『共産主義陣営』『共産主義思想を持つ国』と言い切っている時点で嫌韓文化圏とかトランプ支持界隈のくだらない常識に染まってるとしか言えません。共産主義の定義がめちゃくちゃな。)
このブログを書いている人の『一つ一つ事例を見ていくと、一見つながりが無さそうに見えるもの同士が実はガッツリ絡み合っていた、なんてことが往々にしてあるものです。』なんて物言いは、本来繋がらないものを繋がってるように見せるのも陰謀論をつくりだす手法そのものです。
ポパーはまた、陰謀論を多くの「合理主義者」が抱く理論である、とも言う。この場合の合理主義とは、世界は理性的にできていて、理性的に解き明かせるという考えだ。これは、出来事には明確な因果関係があり、人間の理性はそれをコントロールできる、という信念でもある。しかし実際の社会は、常に意図しない結果に満ちている。私たちは目的を持って行動するが、正確に望んだ通りになることはほとんどなく、たいていは望んでいないものを手に入れてしまう。にもかかわらず、陰謀論は「誰がそれを望んだのか」と問うことで、社会における事実上のすべてを説明できると想定する点で、現実を理解する理論として誤りである、とポパーは言う。
世界に意味はないと考えるよりは、意味があると考える方が分かりやすい。特に「なぜ、こんなことが」と思う出来事や状況に直面した時に、「意味などないが、そうなんだから仕方ない」と受け入れるのは難しい。なぜ?という疑問の答えが欲しい。「こんな出来事が起きたのは、世の中がこうなっているのは、明確な原因や意味があるのだ」と理解したい。つまり、私たちは世界を自分の認知的なコントロール下に置きたいのである。いくつかの心理学的研究でも、自分自身や環境に対するコントロール感の欠如が陰謀論的信念を増大させることが示されている。ある調査では、疎外感、無力感、敵意、不当に不利益を被っているという感情と陰謀論的信念の間には、正の相関があった。人は陰謀を信じることで世界が混沌としていると考えずに済み、なぜ自分の人生をコントロールする力がないのかを理解できるようになるのではないか、とその調査は示唆している(注2)。
フランス革命期の陰謀論はまさに、旧来の秩序の変化を認められない人びとが、現実を陰謀の 仕業しわざ として解釈し、自己の価値観を正当化する営みだった。自分にとって受け入れがたい物事に対して、それがなぜそうあるのかを、自分が受け入れやすい形で合理化する。このような意味で、陰謀論は秩序の回復の試みであり、自己のコントロール感や不安を解消するものである。簡潔に救いや癒やしと言ってもいい。それは既存の世界観を脅かすような出来事の意味を理解するための、ある種の宗教的機能を果たしているのである。
陰謀論とは何か そのメカニズムと対処法 : 読売新聞オンライン
ちなみに、この陰謀論が散りばめられたブログ、都合がいいからと自分の違和感を肯定するための材料にする人が多少いるようです。
こういう違和感の肯定が陰謀論の普及につながっていくのでしょう。
まさにKPOPを受け止められない(韓国にできるわけがないと蔑んでいる)人たちの『特に「なぜ、こんなことが」と思う出来事や状況に直面した時に、「意味などないが、そうなんだから仕方ない」と受け入れるのは難しい。なぜ?という疑問の答えが欲しい。「こんな出来事が起きたのは、世の中がこうなっているのは、明確な原因や意味があるのだ」と理解したい。つまり、私たちは世界を自分の認知的なコントロール下に置きたいのである。』という需要に寄り添った陰謀論なのでしょう。
こういう人たちにとって、スイスの民間防衛が出てきた時代のような『だが「民間防衛」が想定した「脅威」に対する国家的監視活動はその後も続いた。1989年、スイス最大のスキャンダルといわれるフィシュ・スキャンダルが起こるまで、国家安全保障という名目の下、明確な法的根拠もなく左派主義者らが警察の監視下に置かれていた。』状況が理想なのであろうと想定できるのですが、そんな中国共産党体制下ウイグルみたいな状況を理想とする人間が『Black Lives Matterは中国共産党の目くらましだ』みたいな主張してるのは失笑するしかないです。(Black Lives Matterの中には警察による差別的な監視、捜査への批判が含まれていて、それが怪しい奴を差別含みで監視したい人たちにとってはとことん嫌なのでしょうが、ウイグル統治への批判も『警察などの統治機構の差別的な監視・捜査』が含まれるはずですから。)


このような問題で面倒なのは、先程引用した読売新聞の陰謀論論考にあるように『すでに多く指摘されていることだが、陰謀論的信念に対する真正面からの否定は逆効果になることが多い。陰謀論において「真実は隠されている」のだから、否定されることでかえって信念を強固にする危険性もある。』だから『他者の主張を陰謀論だと名指しすることは、その主張が聞くに値しないものだと切り捨てることを意味する。それは対話の否定である。』ので気をつけろ、となるわけで、私のようなブログを書くことも陰謀論者を閉じ込めてしまい本当は逆効果なのでしょう。
しかし、私にはこういう人を説得する気もなく(ブログ筆者本人は『テーマがテーマなので、なるべく過激な言い回しにならないよう気を付けているつもり』でこうなるくらい当然のものとしているようなので、もうどうしょうもないでしょうし…)、単にこれ以上拡大増加しないように願うのみです。
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