アメリカ大統領選挙が開票が進んでいく中、接戦州の一部をトランプ氏が制したと言うマスコミの確定報道を受けて「報道・世論調査は信用ならない」と煽る人が何人も見られました。
これは事前の予想のようなものと、実際の結果の接戦具合の差を見て述べているのでしょうけど、これは実際に世論調査が信用できないのではなく、小さな得票の違いで大きな選挙人の人数の結果の違いを生む、アメリカの選挙制度に一因があったり、そもそも世論調査を信じすぎているのではないか、というように私には見えます。
例えば世論調査不信論を取り上げる記事を日経新聞が書いています。
この記事の中で具体的な数字についてはこう書いています。
主要な世論調査を集計する米政治サイトのリアル・クリア・ポリティクス(RCP)によると、バイデン氏の全米支持率は3日時点で51.2%と共和党候補のトランプ大統領を7.2ポイント上回った。東部ペンシルベニアや南部フロリダなど激戦6州の平均支持率でもバイデン氏は2.3ポイントの差でリードしていた。
バイデン氏が圧勝するとの見方もあったが、両候補は僅差で競り合う。RCPによるとフロリダ州ではバイデン氏の支持率がトランプ氏を0.9ポイント上回っていたが、実際にはトランプ氏が勝利を確実にした。トランプ氏は前回2016年の大統領選で同州を1.2ポイント差で制したが、今回は得票差がさらに開く勢いだ。
中西部オハイオ州でも世論調査ではトランプ氏のリードが1ポイントだったが、トランプ氏はこれを大きく上回る得票差で勝利するとみられる。
米世論調査また不正確 「隠れトランプ支持」接戦の背景 (写真=AP) :日本経済新聞
米重氏が述べているように基本的に世論調査は誤差、ブレがあって当然なものです。
例えば、米重氏が代表取締役を務めているJX通信社とABCテレビが共同で行った、大阪都構想についての定期世論調査について、概要の解説にはこう書いてあります
調査方法
大阪都構想住民投票 世論調査データ&解説ポータル|ABCテレビ×JX通信社 (引用したのは第7回の調査の方法)
10月30日(金曜日)と31日(土曜日)の2日間、無作為に発生させた電話番号に架電するRDD方式で、大阪市内の18歳以上の有権者を対象に調査した。1048件の有効回答を得た。最大想定誤差は±3.0%(信頼度95%)。
ここに「最大想定誤差」についての記述があるように、こういう数字はブレがあることを前提に作られているのですが、受け取る側としては(数字を受け取って報じる側も含みます)それをどうしても忘れてしまうものです。
ですが、標本サイズによって想定されるブレというものはどうしようもなく存在します。
私は計算式が苦手なので、数字の計算の話は苦手なのですが、ここらへんの標本3600は95%で±1.7%以内のブレ、標本1068で95%で±3%以内のブレ、ぐらいの数字は土地勘として覚えていいのかもしれません。
一方、今回のアメリカの話の場合、各世論調査がどの程度のデータを集めているのかわかりませんが、前回のトランプ当選時の失敗を糧にサンプルの属性ごとの数字に注意したりなどそれなりの改善はしているようですし、世論調査としての誤差は大きなものではない場合が多いのではないかと思います。
それでも、接戦州の場合数%で結果がひっくり返り、選挙人がすべて逆の陣営に向かうことになり、がらっと風景が変わります。そのがらっと変わった風景を見て『外れた』という印象が強化されてしまうことがあるのかもしれません。
ただ、一方で、世論調査はあくまでも世論調査であって、選挙という現象を完全に予測できるわけではないということにも注意が必要です。
例えば、10%近く結果がぶれている州もあり、それは流石に『世論調査が外れた』と言える可能性が高そうです。
そのようなことについて、例えば以下のような解説がなされていたりします。
(Q.世論調査の精度が上がったという話もありましたが、なぜ今回も外れたのでしょうか?)アメリカ政治に詳しい早稲田大学・中林美恵子教授
「出口調査などもっと詳しいデータがこれから分析されることになると思いますけれど、現在のところだと、どれだけの人を投票に行かせるかという“熱量”だと思います。トランプ大統領は終盤に向けて、投票所に行こうという追い立てを非常に成功したと言っていいと思います」
「もう1つは、人柄を選ぶのかそれとも政策を選ぶのかという、大きなせめぎ合いがありました。トランプ大統領の人柄ではなく、経済的な政策を選ぶ。そして、その実行力を選ぶ人が、この局面に出てきていた。その人たちが投票していた可能性が高いです。」
「なぜ世論調査が外れてしまうのか。世論調査は、全国民にサンプルとして電話をかけますが、答えた人が投票に行くとは限りません。しかも、熱量の低いバイデン支持者は、ちょっと色んなことがあると行かなかったりする。ところが、トランプ支持者はすごい熱量です。雨が降っても新型コロナウイルスがあっても投票に行くという人たちの熱量は、世論調査ではなかなか測れないんだと思います」
「じくじたる思いをするワシントンの人間から聞いた話ですが、熱烈なトランプ支持者の人たちは、フェイクニュースだと言いたいがために、世論調査の電話がかかってくると、切ったりとか答えなかったりということも頻繁に起こっているといいます。そして、メディアが世論調査を間違えると『それ見たことか』『やはりフェイクニュースだ』いう人たちが、トランプ支持者のなかにいるのではないかという声がアメリカの一部ではあります」
再びトランプ旋風読み取れなかった世論調査 理由は
この解説の最後の話のように、マスコミ不信、世論調査不信がきっかけで世論調査に答えない人が増えて、それか世論調査不信を更に煽る結果となっているとしたら、とても悲しい負の連鎖であるとしか言いようがありません。
この辺について、日本の当確や優勢を報じる選挙報道では、世論調査だけではなく、現地調査の手応えを加味して報じています。
例えばフジテレビは2019年の参院選の際に当確報道についてこう解説しています。
また、FNNも行っていますが、それぞれの選挙区に担当者を配置して情勢を調査していくケースもあります。担当となった記者たちは以下のような点を徹底的に取材していきます。
① 選挙区ごとの基礎票や状況を徹底的に調べる
これは各候補や各政党の支持者がどの程度、その地域にいるのか。宗教団体や労働組合などは誰を応援しているのかなどを取材・調査することで、各候補者が最低どのくらいの票を持っているのか(基礎票)を調べます。
また、過去の市町村議会選挙や県知事選挙などの、その地域の選挙結果などとも照らし合わせ、その選挙区の特徴を分析していきます。
② 各候補者の陣営を取材していく
①のような形でベースとなる選挙区の状況を把握した上で、次は各候補者の陣営の選挙活動を取材していきます。
街頭演説や建物の中で行われる集会などに、どれだけの人が集まっているのか。陣営の盛り上がりはどうなのか。政党に所属する候補者なら、市議会議員や県議会議員は、きちんとその候補者を応援する活動をしているのか、などを調べていきます。
「この候補者の街頭演説は立ち止まって聞いている人が日に日に増えている」
「政党本部から選挙担当職員が入って指導をしているようだ」
「前回は会場が満員で立ち見も出ていた集会なのに、今回は空席も目立っているな」
「〇〇県議は2つの陣営に良い顔をしているけど、実際どっちを応援しているのか」
など、選挙区の担当者は日々の変化や陣営の様子を取材し、選挙戦の状況を分析した上で、当選の判定に役立たせています。
こうした調査の積み重ねや記者たちによる綿密な取材、入念な分析が行われることで、開票が締め切られた午後8時、開票を始める前に当選確実を報道できるのです。
投票終了直後の午後8時になぜ“当選確実”って言えるの?
また選挙期間中の情勢報道などでもそのような調査を含めた言及がなされている場合が多いです。
読売新聞社は21日投開票の第25回参院選について12~14日の3日間、全国世論調査を実施し、総支局の取材結果などを加味して中盤の情勢を探った。
与党、改選過半数の勢い…参院選・読売情勢調査 : 参院選2019 : 参院選 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン
日本ではこの調査の正確さのせいで選挙周りに歪みが生じているのではないか、という説もあるわけですが、少なくともこういう世論調査の数字を整えるというか、数字だけでは見えてこないものを拾い上げて正確さを高めているわけです。
今回のアメリカの例を見ると、もしかするとこういう情勢調査のようなもの(を受け取った量)の不足が原因で世論調査の数字ばかり注目することになり、それが実際の結果と実感がズレる原因となり、世論調査不信やマスコミ不信を煽る人が増えた、という流れなのかもしれません。
例えば朝日新聞の金成さんは『取材の感触と世論調査が一致しない』ということを述べていたようですし。
この取材では世論調査ほどトランプ支持層が崩れていない、という手応えは『』
また、アメリカ政治・外交の専門家である中山俊宏氏が、今回の展開を終始想定内と述べているのもそういう情勢報道(を受け取った量)の不足が世論調査不信論ばかり加熱していることの主因であるという私の想定を強める要因です。
一つを信じすぎると、ボロが出たときに一気に不信に振れてしまう、みたいな。
こういう話から、問題の核心は世論調査の正確性ではないのでは?と思っている私なのでした。
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