6月6日放送のNNNドキュメント『孤独に苦しめられる人たち SOSを出せないあなたへ』を観ました。内容が個人的に印象に深く残っていたので、記録しておきます。
内容
中心人物は、豊中市でコミュニティー・ソーシャルワーカーとして働いている勝部麗子さん。
現在の福祉政策では救われにくい「孤立」している人を救うことを使命として活動している。
昨年11月、勝部さんが働いている社会福祉協議会の下に1本のSOSの電話が入る。
「ゴミ屋敷をどうにかしてほしい」という内容だった。
そのゴミ屋敷に住んでいたのは、見るからにやせ細っている(当時)41歳の男性(仮名 佐藤さん)。10年以上前からぜんそくと腰痛が原因で外出が困難になり、その結果、出前に頼るしか無くなり、ゴミも溜まってしまっていた。
佐藤さんは20代の頃は工場で働いていたのだが、ぜんそくとアレルギーの症状が出て働けなくなってしまったのだという。そしてそれと同時期に一緒に住んでいた父親も亡くなってしまい、母親も入院してしまった。
それから10年、生活保護は受給できていたものの、生活面で誰にも助けを求められずに生きていきたという。
勝部さんが外出を促したことで佐藤さんはなんとか歩き出したものの、腰がカギ括弧(「)のように曲がってしまっていて、なんとか歩けている、という状態だった。
豊中市だけで、佐藤さんのような『外出できない働き盛り』が2300人以上居るという。
豊中市の人口は約39万人なので、人口の約0.5%に当たると言える。
勝部さんは元々は教師を目指していた。しかし、教育実習で給食費を払えない子どもを見て、福祉の道に進むことに。
すると「制度だけでは救えない」という現実に直面したのだという。
勝部「結局制度が、65歳以上とか住民票がないとダメとか、いろんな縛りがあるので、目の前で困っている人がいっぱい来て窓口で相談しているのに、『それはできません』って言って帰している姿が心に残ったんですよ」
勝部「べつに交通事故にあいたくてあっている人はいないし、大切な人を失いたいと思って失っている人もいないし、いつ誰でもがこうやって滑り落ちていく社会なんやなって。その人達が声を上げてくれたことで、問題が社会的に見える化していくっていうか」
勝部さんが住民が「誰が何で困っているのか」を共有することを促すことも行っている。
「支える側も支えることで人とつながる」
「知ることで優しさが生まれる」
そういう思いから行っていることのようだ。
しかし、そんな勝部さんも全員を助けられるわけではない。
かつて世話をした方が自殺したと勝部さんに連絡が入った。
20代半ばの青年で、母親を亡くした後、一人で悩んでいた。数カ月前には勝部さんに就職したという報告があったという。
勝部「『来世で幸せになりたい』とか(言っていた)。今の世の中で幸せにしてあげられなくて、無念です」
佐藤さんの元を半月ぶりに訪問。
佐藤さんはまだベットから自主的に起き上がることが出来ていなかった。
そこで勝部さんは男性を外に連れ出した。
佐藤さんは長年動かなかったことで、筋力低下してしまっていて、階段を昇り降りするのも一苦労だった。
そういう苦労をしてたどり着いたのは『豊中びーのびーの」という、引きこもりがちな人が社会復帰を目指すための場所だった。
勝部さんは5年前からそういう集まれる場所を作ってきたという。
佐藤さんもそこで社会復帰への第一歩を進むべきと判断したという。
実は最初の訪問の時に、ゴミが大量にあったものの、そのゴミの大半を占めていた出前の容器が全部綺麗に洗われていたという、佐藤さんの几帳面な性格を示すような事がありました。
手先も器用なようで、キーホルダーを作ると言うことになり、絵を書いたところ非常に丁寧に色を塗っていました。
そのキーホルダーについて、周りの人から『かわいい』などと笑顔で伝えられると、佐藤さんの顔に、満足そうな笑みが浮かんでいました。
慣れてきたのか、佐藤さんは自分の事も話してくれるようになりました。
佐藤「(好きな歌手は)アイドルとかEXILEとか」「(若いころのアイドルは)BOØWYとかリンドバーグとかプリプリとかSHOW-YAとか」
話している内容はいたって「普通」でした。
勝部「つながれないから、つながらない。つながらないから自分で立ち直っていけない。そこが孤立の問題だろうというふうに思います。」
舞台は変わり、38歳で高齢出産した女性(仮名 美代子さん)の話に。
出産後ヘルニアで入院し、思うように育児が出来なくなるも、両親は他界し、夫は単身赴任と、一人で悩まざるを得なくなってしまった。
この方の例以外にも、責任感などから、悩みを一人で抱えてしまう母親が増えてしまっているという。
相談を受けた勝部さんは、美代子さんがボランティアを頼めるように手はずを整えた。
さらに地域住民に相談。(多分地区の自治会のようなもの)
すると「明日食べるものがない人には最大限援助しないといけないが、こういうケースはどこまでしていいのか、疑問に思うところがある」という反応が帰ってきた。
勝部さんはその反応に対し、「貧困には2種類あって、人間関係の貧困も存在している」ということを説明し「サポートしてくれる人がこの町にいるという安心感だけで、この人の不安は絶対解消されると思う」と説得。
すると住民側も「そういうことだったら十分できると思う」と態度が前向きに変わっていた。
勝部「人間関係の貧困は関わる人達を増やしていくってことをしないかぎりは安心とかってならないから」
その後、美代子さんは、地域の母親の集まりに参加するようになりました。
美代子さん「(あの頃は)緊張しすぎていたんだなって最近わかって」
「なんにせよ ひとりってのはあかんと思う」
ひとりのときは不安ばかりだったのが、ボランティアの方などに助けてもらいひとりではなくなってようやく「なんとかなる」と思えるようになったのだという。
一方、佐藤さんは病院で診察したところ、曲がった背中は、骨が一旦潰れた後にそのような形で固まってしまって、治らないことがわかってしまっていた。
皮膚の炎症を抑えるためのステロイドで、骨がもろくなってしまっていた可能性があり、動かなくなったことでさらに悪化していたのではないか?という。
今年2月、それを聞いたことに加え、冬の寒さとぜんそくにより、体が思うように動かず、佐藤さんはまた外に出れなくなってしまっていた。
そこで佐藤さんはさらなる一手。
介護保険を使って佐藤さんの手助けとなるヘルパーさんが来てくれることに。
佐藤「(やりたいことは?と聞かれ)普通に友達とカラオケに行ったり、普通に暮らしたい。普通が一番。」
この春、佐藤さんは42歳の誕生日を豊中びーのびーので祝ってもらえた。
そこで久々にカラオケで歌うことも出来た。
そして佐藤さんはヘルパーさんに付き添われながら、外に買い物に行くようになったようだ。
佐藤「やっぱりひとりでは生きていかれへんから。(今は)ひとりだけど、ひとりじゃないかな」
感想
職場やSNS(または地域社会)で濃すぎる人間関係にNOと言いたい問題が多くある一方で、このような人間関係のない問題もある。
経済問題での格差が注目されていますが、個人的にはそれと同等、もしくはそれ以上に人間関係の格差は深刻だと思います。
経済格差は制度で手出ししやすいですが、関係格差は勝部さんが見たような「制度では救えない」可能性が高いものが多い問題だと思います。
それをどう解決するか、というと、いまのところは「個人」に注目していくしか無いのだろう、と思います。だからこそ解決しないのでしょうけど。
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