中川正春氏の質問の冒頭は、直前に質問を行った自民党の山田賢司議員の質疑を受けて押しつけ憲法論について。
『押し付けられたかどうかという過去に拘ることが建設的な議論になるのか?ということに尽きる。私達は68年賭けて現在の憲法を私達のものにしてきた、という事実に立って事を運ぶということなら、自主憲法に遡らずに、現在の憲法を元に改憲するというコンセンサスを得ることが重要だと思うが、小林参考人はどう思うか?』という質問。
小林参考人は『今の憲法をまず、是として受け入れたところで、それを前提に、憲法もはっきり言って道具ですから、主権者国民が、国家権力を正しく管理して皆の幸福を最大限増やしていこうという営みの道具ですから、元々作った人間が不完全な人間で、戦後の興奮状態で急いで作ったものですから、必ず不都合というものはあり得る。だから今の憲法の良きところを、三大原理を中心としてメンテナンスかブラッシュアップの方向で、まず国民啓蒙を政治家たちにやっていただきたいと思う』と回答。
続いて、中川正春氏は憲法改正議論の話として、安倍総理の改憲では、国民が信頼出来ないという問題を抱えているという意見を表明。そして、関連として安保法制に関する質問を始めます。
昨今の安保法制の質疑を例にして、『専守防衛の定義を守れていないのに政府は「専守防衛を守っている」と言っている』とか『説明で集団的自衛権という言葉が使われるたびに定義が別物になっている』などの、基本となるはずの言葉の定義が揺れていることで、同じ言葉を使っていても意味していることが違っているので、議論がまとまっていないことを指摘し、この言葉の揺れを誰がどうやって制御するのか、ということを『憲法解釈』に関わるとして笹田参考人と小林参考人に質問。
笹田参考人は『現実においては内閣法制局が見ることになる。カナダではレファレンスという形で最高裁に判断を願う事を長いことやっている。何らかの形で裁判所に組み込むのは一つの案として考えていいと思う。』と回答。
小林参考人は『最近の特別委員会の議論は真剣に見ているが、これは有権解釈の問題というよりは“常識・非常識”の問題だと思う。日本語の乱れというか、政治家にプライドがあったらこういう議論はしないだろうと思う。仮に名誉毀損で訴えられても言い続ける。日本国の最高機関でこういう議論がなされていてとても恥ずかしい。原因は、自民党側から議論を仕掛けたわけですから、言葉がくるくる動くのはおかしい。戦後70年間、少なくとも憲法9条の縛りで海外に軍隊は出さないできたものが、これからは集団的自衛権と後方支援という説明がつくようになるから出せるということになるから、これは今までしたことがない国際法上の戦争に参加するようになる、戦争法なんですよね。それが必要だと言っているんだから、それで行けばいいんだけど、『平和だ』『安全だ』『レッテル貼りだ』『失礼じゃないですか』と言っている方がはっきり言って、私は失礼だと思います。そういうレベルの話ですから有権解釈のレベルの話ではなくて、むしろ今の議論の中で野党の方たちが、明確に論争を仕掛けてその異常さを、私は異常だと思います、異常さを我々国民に対して知らせて下さい。そこから先は、憲法の最後の歯止めの、有権者の投票行動になると思います』と回答。
それに続いて『率直に聞きたいんですけど、先生方は今の安保法制、憲法違反だと思われますか?それともその中に入っていると思われますか?先生方が裁判官になるんだったらどのように判断されますか?』という質問を中川正春氏。報道で報じられた質問ですね。
まず長谷部参考人『安保法制というのは多岐にわたっておりますので、その全てという話には中々ならないのですが、まずは集団的自衛権の行使が許されるのかという点について、私は憲法違反であると考えております。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつきませんし、法的な安定性を大きく揺るがすものであるという風に考えております。それからもう一つ、武力行使、外国の軍隊の武力行使との一体化に自衛隊の活動がなるのではないか?という点については、私は一体化する恐れが強いと考えております。従前の、戦闘地域、非戦闘地域の枠組みを用いた、バッファーを持った、余裕を持ったところで明確の線を引く、と。その範囲内での自衛隊の活動にとどめておくべき、と考えております』と回答。
小林参考人『私も違憲と考えます。憲法9条に違反します。9条の1項は国際紛争を解決する手段としての戦争、これはパリ不戦条約以来の国際法の読み方としては、侵略戦争の放棄、ですから我々は自衛のための何らかの形の武力行使が出来ると留保されています。ただし2項で軍隊と交戦権が与えられておりませんから、海の外で軍事活動をする道具と法的資格が与えられておりません。ですから、自民党政府のもとで、一貫して警察予備隊という第二警察としての自衛隊をつくって、だからこそ軍隊とは違って、腕力について比例原則、軍隊に比例原則なんてありません。軍隊は勝つためになにやってもいいんですから、本来、世界の常識。その比例原則で縛られて、警察の如き振る舞い(をしなければいけない)。だから攻めて来られたら、我が国のテリトリーと周辺の公海と公空を使って反撃することが許される。例外的に元から絶たないと行けない場合には理論上敵基地まで行ける。というこの枠組みはずっと自民党が作って守ってきたもので、私はこれは正しいと思う。この9条をそのままにして、海外派兵、集団的自衛権というのは色々定義がありますが、国際法というのはまだ、法自体が戦国乱世の状態で中心的有権機関が無いわけですから、世界政府が無いわけですから、それぞれが色々言って、およそのところから言って、少なくとも、仲間の国を助けるために海外に戦争に行く。これが、集団的自衛権じゃないという人はいないはずです。これをやろうということですから、これは憲法9条、とりわけ2項違反。それから、先ほど長谷部先生がおっしゃった、後方支援という日本の特殊概念で、要するに戦場に後ろから参戦するだけの話でありまして、前から参戦しないよってだけの話でありまして、そんなふざけたことで言葉の遊びをやらないで欲しいと本当に思います。これも恥ずかしいところです。ですから、露骨に憲法(違反)。で、今、公明党と法制局が押し返してますよね?でも、あの通りになったら何も集団的自衛権という言葉、要らないじゃないですか。個別的自衛権で押し返したんですか?という疑問もあります。』と回答。
笹田参考人は『ちょっと違った角度から申し上げますと、例えば日本の内閣法制局は、ずっと自民党政権と共に安保法制をずっと作ってきてたわけです。そしてそれのやり方は、非常にガラス細工と言えなくもないですけど、本当にギリギリのところで保ってきているんだな、ということを考えておりました。一方、ヨーロッパではコンセイユ・デタ(フランスの国務院)のような、法制局、日本の、原型となりますが、あそこは、憲法違反だと言っても時の大統領府なんかが押し切ってやるんだという事で極めてクールな対応を取ってきて、そこが大きな違いだったと思います。ところが、今回我々、私なんかはやっぱり、従来の法制局と自民党政権の作ったものが、ここまでだよな、という風に強く思ってましたので、お二方の先生がおっしゃいましたように、今の言葉では、定義では踏み越えてしまったと、いうことで違憲だと思います』と回答。
この回答のあと、中川正春議員は締めの一言として『ありがとうございました。私もその思いでいっぱいなんです。同時に、笹田先生が、リファレンスに関して、こういうことも出来るよと言っていましたが、私はこれを憲法調査会の一つのテーマにしていいと思います。今の範疇の中で裁判所が判断できる、違憲性を判断できるという枠組みになっているわけですから、そのことを合わせて提案させて頂いて、ありがとうございました。時間を少し超過しました』と述べて参考人質疑を終わらせていました。
正直、参考人の三人が思ったよりも踏み込んだ回答を行っていて、『予想を越えた』といった船田元氏の感想は正直なものなんだな、と思ってしまいました。
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