山田太郎議員が触れていた自動車一斉検問の判例とは?

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春画はエロか芸術か?警察から週刊誌への圧力を振り返る – ログミー

山田太郎議員がコミケの日に行ったメディアフォーラムのログを読んでいたところ、以下の記述を見つけました。

 

この職質問題というのは、最高裁で別の判決も出ていて厄介なんです。これは、交通違反を捕まえる為に検問をやっているんだけど、あれ自体違法なんじゃないかと。何もしてないのに止められるっておかしいよねって話の中で、警察法というものでやっていいということになっていて、穴が空いちゃっている。

とんでもない最高裁の判決だと思います。根拠法がないんで。警察法は組織法といって、警察法の2条に「警察官は社会秩序の維持のために努力しろ」と書いてあるんです。それだけの条文を使ってやっていいことになっている。

そんなこと言ったら、警察は何でもできるだろうということになります。この時の判決はとんでもないと思うんです。

この判決について、書いておこうと思います。

 

そもそもなぜ裁判になったのか?

まずは裁判に至るまでの概要です。

この裁判の当事者は宮崎県警察と一人の運転手です。

ある日、宮崎県警察の巡査2名がある場所の道路で交通違反の一斉検問を行っていました。

そこでとある運転手が停止の指示に応じて車両を停止させると、巡査は窓を開けさせて運転免許証の提示を求めました。

その際に酒臭かったために、酒気帯び運転の疑いが生じたので、運転手を降車させ近くの派出所に同行。そこで飲酒検知調査を行ったところ、アルコールが検出。そのために鑑識カードと交通事件原票が作成され、運転手はそれに署名して帰宅。

その後、道路交通法違反で起訴された運転手が、『自動車一斉検問は法的根拠を欠く違法なものであり、検問が端緒となって収集された証拠には証拠能力がない』と主張し、裁判になりました。

 

裁判はどうなったか

裁判では1審・2審ともに運転手が敗訴、更に運転手は上告、最高裁に至るものの、結局上告は棄却されました。

その際の最高裁決定の内容が問題とされている物になっています。

その内容は以下のようなものでした。

「警察法2条1項が『交通の取締』を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものである」

「それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきものでないことも警察法2条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨にかんがみ明らかである。」

「自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものである」

「警察官が、交通取締の一環として交通違反の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解するべきである。」

このような論が展開されていたのです。

 

決定の何が問題なのか?

まず、この決定の根拠となっている警察法2条の条文を引用します。

 

第2条 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

これを読むとわかるように、この警察法の条文は、あくまでも警察の責務について書かれた条文です。

この警察法というものは、1条に『警察の組織を定めることを目的とする』と書かれているように、警察という組織がどのようなものなのかを定める法律となっています。そのような法律を『組織法』と言います。

この警察法では、責務などについては定められていても、その法律だけではどこまで(実際に活動する警察官に)権限を与えられているのか、などは決まっていません。この権限の決まりがないと、行政活動の制限が無いために、不当に個人の自由の侵害が行われる可能性が高まります。

そこで、具体的に個々の警察官が何をしていいのか?などの根拠となる法律(これを作用法といいます)が必要となってきます。警察法に関連する作用法として警察官職務執行法というものがあります。

この警察官職務執行法の2条1項では職務質問が出来る条件が定められています。

(山田議員が『職務質問って何かというと、警察官職務執行法という法律があります。その中の2条の「質問」という項目があります。質問、つまり、「何々見せてください」「どうだったんですか」って聞けるのは、2つ要件が必要なんです。どっちかしかダメなんです。1つは、「近くで事件が起きている場合」又は「明らかにその人が事件を起こそうとしている場合」だけなんです。』と説明しているものです)

以下に警察官職務執行法2条1項を引用します。

 

第二条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

職務質問には以上の作用法にあたる警察官職務執行法に定められた要件を満たすことが必要なのです。

ここで、自動車一斉検問の話に戻しますが、自動車一斉検問はこの要件を満たさない可能性が高いのです。

何故かと言うと、自動車一斉検問は、何か不審な点があるから止めるなどの選別がない、無差別一斉検問なのです。それでは警察官職務執行法の要件である『異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者』というもの、要するに挙動不審者のみ、というような要件を満たしません。

そして、これも作用法に該当するであろう『道路交通法』にも検問に関する条文があるのですが、それも全て違反していることを認められるなどの、一定の要件を満たさないと車両を停止させることが出来ない作りになっています。

要するに、無差別一斉検問である自動車一斉検問には、根拠となる作用法が存在しないのです。

で、そういう根拠となる条文が無い事を乗り越えるために出てきた裁判所の理屈が『相手の協力を求める形』、要するに『任意の調査である』ということと、『自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、様態で行われる』という二つの要件でした。(合理性も要件となっているようだが、ここでは省きます)

しかし、ここで先程の決定をもう一度確認して欲しいのですが、『任意の調査である』といいながら、「自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものである」とも裁判所は述べています。

この前提を加えてしまうと、調査は『当然協力すべきもの』であって、そこに任意性は消え失せてしまうのではないのでは?

実際に、このような検問を拒否すると『公務執行妨害』にあたる恐れもあるでしょう。そのようなことを考えると『任意の調査である』という要件は破綻している、実質は強制を伴う調査であるといえるのではないでしょうか?

そのような実質強制、名目任意の調査が『責務』のみを根拠に行われてしまっているのは、非常に危ういのではないでしょうか?

そこで、きちんと作用法にあたるものを作って、自動車一斉検問などが、きちんと根拠があるようにしないと根拠が曖昧なまま実質強制的に行われている現状はおかしいのではないか?という問いかけがなされているのが山田太郎議員の話なのだと思います。

(これは行政法のテキストにも出てくるような問題であり、『法律の留保』という大きな論点にも繋がるのですが、それはまた別の機会に)

 

ちなみに

警察官職務執行法2条の3項には『前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。』とあり、礼状などの根拠がない限りは、職務質問も強制力は無いものとして定められているはずなんです。

ですが、実際は判例では『職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合がある。』というように、これまた『任意』という幅を超えて認められてしまっている、しかも作用法上に根拠が無い自動車一斉検問よりもよりゆるやかに認められてしまっている(ように読める)という問題もあるようです。

(ちなみにその判例では『職質・所持品検査を拒む』事が不審な挙動と言われていて、それが職務質問の要件を満たす事実になるようなのですが、これもこれで問題のような・・・)

 

参考にした文献

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