裁量労働制について

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公明党の議員が、裁量労働制を取り上げた社説に以下のような反応を示していました。

新聞業界は記者を裁量労働制の下で働かせているんだから、それを辞めてから裁量労働制の文句を言え的なことなのでしょうか?

確かに、新聞記者は裁量労働制の元で働いています。
そして、それに言及されるときは大抵『過酷な労働環境』に関する話とセットです。

 朝日新聞社は、国内外で約2千人の記者が働き、原則「裁量労働制」が適用されている。社外で取材する時間が多いため、正確な労働時間を把握することが難しいからだ。記者は、裁量労働制を適用できると法律で定められた19業種(専門業務型)のうちのひとつで、日々このぐらい働くという「みなし労働時間」を労使で取り決めている。

働き方、記者も手探り 取材尽くすため夜回り:朝日新聞デジタル

長時間労働による過労死で亡くなったNHK記者の佐戸未和さん(当時31)。佐戸さんの死をきっかけに、NHKでは働き方改革を進めている。その一環として、2017年4月から記者を対象に「専門業務型裁量労働制」が導入されたという。

「専門業務型裁量労働制」というのは、労働基準法第38条の3に基づき、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度だ。

19業務に限って導入することができ、その内訳はプログラマーや弁護士、公認会計士など様々。この中に、「新聞もしくは出版の事業における記事の取材もしくは編集の業務又は放送法に規定する放送番組の取材もしくは編集の業務」として、新聞・雑誌・テレビなどの記者も含まれている。

一方、現場のマスコミ記者に労働環境について話を聞いてみると、「裁量労働制だからといって労働環境は無茶苦茶だ」「20連勤もざらだが、違法ではないのか」といった声も聞こえてくる。

20連勤もざら、代休なく、給料変わらず…記者たちの「裁量労働制」どこが問題か検証|弁護士ドットコムニュース

主に都政取材を担当していた佐戸未和さん(当時31)の過労死を公表したNHK。亡くなったのは、参院選の投開票の3日後で、労基署が認めただけでも、直前1か月の残業時間は159時間37分だったという。

こうした悲劇も受けて、NHKでは、休日労働の管理徹底など「働き方改革」が進んでいるようだ。今年4月からは、「事業場外みなし労働時間制」に代えて、「裁量労働制(専門業務型)」を導入した。

NHK内部資料には、導入の理由として「健康確保の一層の徹底」「長時間労働の改善」などと記載されている。

資料によると、実はこの制度変更はNHKだけでなく、既に多くのメディアで実行されているという。ただし、「事業場外制」も実際の労働時間に限らず、一定の時間を働いたと「みなす」制度で、裁量労働制と一致する部分も多い。

NHKなどのマスコミ記者が「事業場外みなし制」から「裁量労働制」に…何が変わる?|弁護士ドットコムニュース

世間知らずの新卒生が新聞社に入ってから知ったのが、「裁量労働制」という働き方だ。新聞記者として働く中で、私がこの制度について理解していたのは「残業代が予め固定額で決まっていて、残業時間に関わらず毎月同じ額の残業代が振り込まれる」ということだった。極端にいえば、どれだけ多く残業しても、毎日定時で帰っていても、同じ額の残業代がもらえるのである。

だったらいかに楽をするかという方向に流れそうなものだが、常に締め切りという名の納期を抱え、突発的な出動を求められる報道の現場では、この制度が記者の無茶な長時間労働の温床になっていると肌で感じていた。最近でも記者の過労死が報道で問題となったが、筆者のいた現場でも、かつて優秀な敏腕事件記者だった先輩が後遺症の残るほどの病に倒れていた。報道に出ているマスコミの過労問題は氷山の一角だろう。

元新聞記者が語る、裁量労働制の実態と問題点|@人事ONLINE

オフィスの出入りが激しい記者や編集者は労働時間を把握しづらいため、労働基準法に基づく裁量労働制(みなし労働制)を取り入れている職場も多い。

労使協定によってあらかじめ所定労働時間を決める制度だが、それが実質的な長時間労働の温床となっていることもある。

たとえば朝日新聞社では、裁量労働制職場の記者が記録した2016年3〜4月の2ヶ月分の出退勤時間を、所属長が短く書き換えていた。BuzzFeed Newsが11月に報じている。

「うちは電通のこと書けないね」長時間労働に悩む女性記者たち マスコミの抱える課題

このへんの記事からは、裁量労働制が過酷労働に寄与している可能性が高いこと、少なくとも理想的な裁量労働制の運用は新聞記者界隈ではなされていないこと、などがわかります。

伊佐議員は、それを受けて上記のツイートをしたのかもしれませんが、伊佐議員は与党議員であり(新聞記者が利用する専門業務型とは要件が違いますが)企画業務型裁量労働制の拡張を推進する側にいらっしゃる議員です。

その立場でこういうツイートをするというのは同じような問題が拡張によって起こることはありえないと自信満々なのか、それとも問題を新聞業界に限定化することで、裁量労働制から問題を切り離したがっているだけなのか…

それを見極める参考として紹介しますが、冒頭のツイートの翌日、伊佐議員は、以下のツイートをしています。

そもそも、そのきちんと使った例を持ってきてほしいのですが…
そもそもきちんと使った例があるからといって、問題が存在していることを打ち消せる、なんてことはありません。
多数が満足しているから、少数は特殊例であり、行政や立法の責任ではない、という論立てだとしたら、あまりにも無責任であるとしか言いようがありません。

ちなみに、この調査では、調査方法的に、不満側の意見は集まりづらいバイアスがかかるのではないか?という指摘もなされています。

ちなみに、『不満という赤丸部分ばかり強調するのでなく、そこを減らす、悪用されない「しかけ」こそ国会で議論すべき。』と言われましても、そこの周辺事実について『裁量労働制だから長時間とは限らない』と、ヘンテコなデータを持ち出してごまかした政府側はなんなんでしょうか?

裁量労働制を考えるには、『きちんと使えば「柔軟な働き方」』なんていう、どこにあるかわからない理想を持ち出さずに、『そもそも裁量はどこまで労働者に与えられ得るものなのか』などを、きちんと考えないといけないといけないと思います。

そういう観点で言うと、伊佐議員が持ち出したアンケート調査の別な問にある、適用理由として『部門または職種全部が適用されることになっている』という理由が圧倒的であるというデータは、その実態は裁量労働制として適切なのか?ということを考えないといけないと思います。

専門業務型の裁量労働制について、範囲である専門業務は適切なのか?とか、そういう様々な問題点を見直し整備ことが先決で、問題があるにも関わらず、それを過小評価したり、『納得してる人もいっぱいいる』などと誤魔化し、問題解決に至る前に範囲拡大をしてしまうというのは、問題を温存したまま拡大してしまい、問題解決を更に困難にしかねないと思われます。

(ちなみに、拡大と抱き合わせの法案に、『健康確保措置の内容が厚労省の指針から法文化される』ことや、『裁量労働制の従業員の始業時刻・終業時刻を指定できないことが明確化』などがあるようですが、そもそも会社がノルマを課し、その結果仕事量が多すぎるなどの、裁量労働が出来ない事態などに何処まで効果があるのか… 『「裁量労働制の拡大」とは?高度プロフェッショナル制度より影響大!?(弁護士が解説) | 残業証拠レコーダー 』)

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