景気条項について、民主党が数字を決めて、自民党は付け足した。

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○亀井(久)委員 自民党の中の党内バランスというのは、私も外から今見ておりましてよくわかるんです。だから、麻生総理の立場からすると、片っ方に軸足を完全に置くということはやはりなかなか難しいということもそれなりにはわかるんですけれども、麻生総理が、本年度の税制改正の附則に、経済情勢が好転したときには消費税の導入というものも考えるというようなことを強い総理の意思で入れられたということでございますけれども、この経済情勢が好転をするというのは、具体的に、さまざまな指標の数値がどの程度になるということを考えて言われているんでしょうか。そのことについて伺いたいと思います。

 

○麻生内閣総理大臣 経済状況の好転、これはなかなか指標のとり方によって随分いろいろ違っておりますけれども、一般的には、景気が悪化しているという状況から持ち直して、そして改善してきつつあるという状況、形容詞だけで言えばそういうことになるんだと思いますが、その判断に当たっていろいろな指標が使われることになるんだと思います。最終的には、いろいろな数字ももちろん大事だと思いますが、国民の生活や、景気という気の部分がございますので、やはり経済の実態などをいろいろ考えた上で判断するというような最終的な政治判断が要求されるものだと思っております。

 

 単に数字がこうなったからぱっとやるというのは当たるかどうかといえば、これは過去に失敗例は幾つもございますので、その意味では、何を指標にするかというのは、極めて政治判断を要する経済判断なんだと思っております。

これは平成21年5月8日の予算委員会での麻生氏の答弁です。
この精神が、増税法案を作成した時の自民党にも反映されていたのかもしれません。

増税法案の景気弾力条項について、自民党が突っ込んだと私は思い込んでいましたが、調べたところどうも違うようですので、まとめておきます。

まず増税法案の素案は野田内閣によって(政府案として)作られました(ここで自民党が素案を作ってそれを民主党がパクったという想像力を発揮しているブログ記事を見つけたのだが、それが違うことはこれから書く情報を読めば{少なくとも景気弾力条項に関しては}そうではないだろうという事が理解できるだろう)
そこでブルームバーグが素案に関しての記事を書いています。
そこにこういう記述があります

民主党は改革案で消費税率引き上げの停止も含む「弾力条項」を法案に盛り込むよう要請。これを受け、政府案では「引き上げ実施前に名目・実質成長率、物価動向など、種々の経済指標を確認し、経済状況を総合的に勘案し、引き上げの停止を含めた措置を講ずる規定を法案に盛り込む」とした。

まず、経済指標で引き上げ停止等の措置を講ずる規定を法案に盛り込むことが明記されていることがわかります。これがまず党内審議にかけられてきちんとした条文化されました。

それが

 (消費税率の引上げにあたっての措置)

 

第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度(注・2011年年度)から平成三十二年度(2020年度)までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

 

2 この法律の公布後、消費税の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

という条文です。(出展:焦点となった景気条項「消費税引き上げ法案付則第18条」に仕掛けられた増税推進派への「時限爆弾」)この時点では『2020年度までの平均数値を近づける措置を講ずる』というものでした。
どういう努力をするかを明らかにはせずに『とにかく努力するように』という努力目標だけが置かれたのです。

その後、三党協議へと進みます。
三党協議では『「景気条項」が盛り込まれているが、そのための経済政策はどうするのか』などと主張した上で『経済情勢により増税を最終判断する「景気弾力条項」については、自民党は、経済成長率の努力目標の削除を要求し、政府・民主党は、現段階では削除しない構えであるが、溝はそんなに深くない。(中谷元議員ブログより)』
『法案は景気が悪化すれば増税をしない景気弾力条項として、「名目3%、実質2%程度」の成長率確保を盛り込んだが、自民党は削除を求めた。過去10年間の名目成長率で最も高かったのは22年度の1・1%で、実現は容易ではなく、増税を最終決定する政府の判断を縛りかねないからだ。(このブログ記事に転載されていた産経新聞記事より)』
『法案は、景気が悪化すれば増税を止める景気弾力条項に「名目3%、実質2%程度」の成長率を努力目標で盛り込む。民主党内の増税反対派に配慮したためだが、自民党は具体的な目標値の削除を主張している。(このブログ記事に転載されていた産経新聞記事より)』
『自民党は11日の会合で、これに反対し、生活必需品などへの軽減税率の導入を検討すべきだと主張。8%の際に政府が実施するとしている「簡素な給付措置」は容認するとした。また、経済状況次第で増税を停止する景気条項に関しては、成長率の明記は必要ないとの見解を示した。(阿修羅掲示板に転載されていた時事通信記事より)』
『一方、景気条項で努力目標と位置付ける経済成長率の削除を自民党が求めるのは、数値が増税の条件と受け止められ、「将来の政権の判断を縛る」懸念があるためだ。ただ、この数値は、増税のハードルを高めたい増税慎重派の強い要望を受けて盛り込んだ経緯がある。民主党が数値目標の扱いで譲歩すれば、今後の党内論議が紛糾するのは必至だ。(このブログ記事に転載されていた毎日新聞記事より)』
『税制分野では2011年度から20年度まで名目3%程度・実質2%程度の経済成長率の目標を明示した「景気条項」の扱いなどが焦点となる。3党は15日までの合意を目指している。これまでの協議で自民党は消費税率(現行5%)を2段階で10%まで引き上げること自体は容認する方針を伝えているが、景気条項については削除を要求している。(中略)(ブルームバーグ記事より)』
『古本伸一郎税調事務局長が、経済成長率を明記した景気弾力条項を法案から削除するよう自民党が要求していることなどを報告。小沢鋭仁元環境相や馬淵澄夫元国土交通相らが「党内議論を踏まえて決まった景気弾力条項を削除すべきでない」などと求めた。(転載された読売新聞記事より』
『景気弾力条項は、消費税率を2014年に8%、15年に10%へと2段階で引き上げる際、景気が悪化していれば増税をみあわせるもの。ことし3月の閣議決定の際に民主党内の増税反対派を懐柔するため盛り込まれた。現在の修正協議では自民党側が削除を求めているが、政府・民主党の増税推進論者の間でも「経済成長率と無関係に消費税引き上げに踏み切るべき」(関係者)との意見があり、実際に増税局面でどの程度重視されるかは不透明だ。「法案が通れば削除される」(通貨当局関係者)との見方もある。(ロイター通信記事より)』

と自民党が数字目標の削除を要求、しかし民主党が了承しないという展開になりました。

そこで自民党は『政府の成長戦略の実効性の乏しさを問題視してきた自民・公明は、3党間の修正協議で、政府案の景気弾力条項に新たに「成長戦略ならびに事前防災および減災などに資する分野に資金を重点配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する」項目を追加し、経済対策への布石を敷いた。(ロイター記事より)』と何をしないといけないかを明記する方向で動きまして、見事条文化しました。

附則第十八条
消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

自民党ホームページ上の報告でも『消費税の引上げに際しては、経済状況を勘案することとし、その判断にあたってはわが党の主張により、法案の景気条項に「成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分するなど、わが国経済の成長に向けた施策を検討する」ことを盛り込みました。』と景気条項に”付け足しを行った”ことを報告しています。
つまり『数字自体は元からあった』わけです。
しかし、景気条項として注目されたのは『数字の部分』だったと記憶しています。そして、『数字も自民党が盛り込んだ』かのように私は覚えていました。しかし自民党自体は数値目標には反対だったようです。
それと三党合意では『第1項の数値は、政策努力の目標を示すものであること。』ということも確認されていました。つまり数字は努力目標であって明確に守る必要はない、と明確に示したということです。
そして民主党ホームページにある牧山ひろえ氏による藤井裕久氏へのインタビュー記事には

牧山 消費税率引き上げに当たってのデフレ脱却等の措置、引き上げ前に経済状況等を総合的に勘案するという付則の条項については、どのような議論がありましたか。
藤井 この経済問題が非常に大事だという考えは、自民党さん、公明党さんも同じだと思うんですよ。ただ私たちが成長率実質2%という数字を記したことに対し、なぜ書く必要があるのかと言われたことは事実です。しかし、これは条件ではなく目標としてあるのであって、それを書くのは悪いことではないでしょうということで、合意を得てそのまま残されています。

これらから想像するに、自民党や民主党は『成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分するなど、わが国経済の成長に向けた施策』をしていれば、数字は関係なく増税良しとする立場なのかも知れませんし、少なくとも最初に引用した麻生氏の総理時代の答弁にある『単に数字がこうなったからぱっとやるというのは当たるかどうかといえば、これは過去に失敗例は幾つもございますので、その意味では、何を指標にするかというのは、極めて政治判断を要する経済判断なんだと思っております』という精神、つまり指標は時の政権が自由に設定すべきだ、という立場から三党合意に至ったのだろうと思います。

 

2013年10月2日付 追記
他人のツイートを参照に自民党が景気条項に否定的だった証拠を追記いたします

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衆 – 社会保障と税の一体改革
平成24年06月11日金子一義

この委員会が始まる前の本会議の代表質問を私と野田毅先生がやらせていただいたんです。景気条項、二%、三%、実質、名目という成長目標というものをあえて書き込んだ。
これはあくまでも前提ではないというおっしゃり方であるんですけれども、本当にこの成長率、実質二%、名目三%というのが法案に書かれる指標として国民に対してフェアなんだろうか。GDPというのは、当委員会でも、いろいろな指標を組み合わせてでき上がっている、つまりデータを加工してでき上がった集合体である。
経済成長率そのものは、岡田さんも何遍も答弁されました、総理も言われましたけれども、後になって振り返って遡及する、つまり、このときはこんな状況だったけれども、後で振り返ってみたら成長率はきちんとしていた、上がっていた、そういう質疑の答弁が随分ありました。
そういう意味で、改めて景気条項というのを掲げておく意味は余りないんじゃないか。
強いて言えば、これは何で景気条項を入れるかといったら、消費税を上げない条件は何か。つまり、もし入れるとすればネガティブ条項なんですよ。
ネガティブ条項というのは何かといったら、成長率、実質二、名目三、そこから導き出されてくるのはインフレ率、物価上昇率プラス一%でしょう、安住さん。日銀もそれを言っているんですよね。
日銀の白川総裁も、日銀レポート、今の物価上昇率プラス一%というのは、一四年も含めてそう遠からず実現するということを言っておられるんですよ。
そうすると、もし数字として入れれば、この物価上昇率プラス一%ということになるんだと思いますけれども、これは安住大臣、いかがですか。
○安住国務大臣 最初政府でまとめたときには、御存じのとおり、この附則十八条の一項、二項の書き方は違っていたわけですが、これは、与党の中で御審議をいただいている中では、名目三、実質二というものを目指す政策目標をやはり法律の附則のところで掲げるべきであるということでございましたので私どもとしては、政府のデフレ脱却や経済活性化に向けた必要な施策を講じていくという目標を、これは先生御存じのように条件ではございませんが、掲げて、いわばこれを目指していきますよと。(略)
○金子(一)委員 総理、この景気条項、数値を入れるということに対してはいろいろな問題があるんだろうなと。(略)最後は時の政治が判断する項目ですから、この法案からは削除をしたい、我々自民党はこれを修正協議で主張していくつもりでありますが、総理、どういうふうにお考えになりますか。
http://www.youtube.com/watch?v=1yb5inEIJ9E
追記の追記
bingで自分のブログへのリンクを調べていた所、【カリスマshow】倉山満part491【あと6時間】というスレにて、この記事のURLが紹介されているのを見つけた。
そしてそのスレにて『結局景気条項なんて何の意味もなかったけどね 意味ないから自民は削除要求したんじゃないの』という珍説を見つけたので一言触れておきます。

増税の決断を最終的に行った時に、自民党は関係しています。
条文は存在しているだけでは何の意味も無いのは当たり前で、法律を使う側がそれに言及して、それを使わないといけないわけです。
要するに、最終的に意味をなかったことにさせたのは自民党なわけで、『意味が無いから削除要求した』ではなく『削除要求したから、意味を無くさせた』と考えるのが妥当だと思います。

削除要求自体は、意味があるかどうかが不明な段階で行われているわけで(意味はその法律が施行されて以降の行政の態度、国民の態度等が影響するので、使われた時にしか、存在するかどうかはわからない)自民党がもし『意味が無いから削除要求した』のなら、最初から『意味を失わせよう』としたのは自民党なわけです。

上のスレでは『自民党が削除要求していない』という根拠を覆された結果『意味が無いから自民党は削除要求した』なんて言い訳が飛び出しているわけですが、どう考えても意味が出てくるかどうかは、政治家次第、自民党政権次第の部分があったわけです。

それを考えずに結果的に意味がなかったものを『最初から意味が無い』と考えてしまうのは、浅はかなことだと思います。

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