国会での演説が全文削除され、その草稿が新聞に全文掲載された事例

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忘れられない国会論戦―再軍備から公害問題まで (中公新書)

若宮 啓文 中央公論社 1994-10
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1956年11月28日の読売新聞の朝刊。
そこには、中曽根康弘議員の衆院本会議での日ソ共同声明の批准に対する賛成演説の草稿がほぼ全文掲載されていたという。

なぜ、読売新聞にわざわざ全文掲載されているのか、その理由の一つは、当時の議事録を紐解くと理解できる。

中曽根康弘君 ━━━━━━━━━
  〔「党を代表してないじゃないか」「議事進行」「議長、休憩々々」と呼び、その他発言する者多く、議場騒然〕

当時の議事録にある、中曽根康弘氏の発言部分はこうなっている。

演説内容に対して、議場が騒然となったことはわかるものの、内容自体は議事録を読んだだけではわからない。

では、内容がなぜ全く記録されていないのか。
議事録を読み進めると、中曽根康弘氏の発言のあと、休憩の後に本会議が再開する。そこで議長はこのように発言している。

○議長(益谷秀次君) 先ほどの中曽根康弘君の演説については、自由民主党から全部を取り消す旨の申し出がありました。議院運営委員会はこれを了承いたしましたので、議長は、同君の演説全部を取り消し、これを会議録から削除いたします。(拍手)

この議長の発言によると、中曽根康弘氏の演説は、自民党によって全文取り消しの提案を受けて、そのとおりになった、という経緯だという

では、なぜこのように全文取り消しと相成ったか。
それは中曽根康弘氏の演説内容に原因があった。

日ソ共同宣言の批准の承認に対する賛成演説という名目で壇上に上がったにもかかわらず、賛成演説といえる内容は最低限整えるのみで、それ以外は持論であるソ連批判を中心に、ついでに野党も批判するという内容だった。

日ソ共同宣言については、鳩山一郎政権を社会党や共産党が支援するような状態。
自民党内では二島返還をうたっている内容だったので批判するものも多く、この時の本会議にも自民党の欠席者が多く居て、野党の協力がなければ成立しない可能性も出てくるような事態だった。

その中で、この中曽根康弘氏の演説に対し野党が猛反発したため、自民党として全文取り消しを提案した、という流れだ。

この国会演説全文削除というのは、1940年の斎藤隆夫氏の粛軍演説以来とのこと。

このことについて、社会党の石橋政嗣氏は自著の中で、このときに社会党議員が「かわいそうでは」と同情したところ、自民党議員は「かまわんから懲らしめろ、あんなやつ」と言っていた、というエピソードを披露していたという。

一方、中曽根康弘氏は、このすぐ後に、当時衆議院議員だった、読売新聞社主の正力松太郎氏を訪ね、演説草稿の掲載を頼んだ。
その依頼が通った結果、翌朝の読売新聞に、全文取り消された国会演説の草稿が、全文掲載と相成ったという。

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