民主党提出の『人種差別撤廃法』とヘイトスピーチの関係

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民主党と社民党が「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」を5月22日に参議院に共同提出しました。

この法律について、民主党や共産党などが『ヘイトスピーチ規制』と称していることに関して『障害者差別や性的少数者差別はヘイトスピーチじゃないのか』『人種差別だけを規制して、それ以外を規制しないのか』という様な批判がツイッターで寄せられていました。

 

この批判には、ツイートしていた本人にもURL引用でリプライを送ったのですが、重大な事実誤認が含まれてしまっています。なので、その事実誤認などについて、ここで書いておきます。

 

・「人種差別だけを規制するのか」について

今回の法律について『人種差別のヘイトスピーチ禁止はしても、それ以外のヘイトスピーチは規制しない』という姿勢の現れである、というのが批判者の認識のようですが、これは事実誤認だと私は考えています。

何故かと言うと、障害者差別に関しては『障害者基本法』と『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』という2つの大きな法律が制定されているからです。(後者は平成28年4月1日から本格施行されるもの。)

そういう大きな法律が存在し、更に施行前の法律まで存在しているところを、今回の新しい法律案に含めてしまうと、重複部分の整備や、法の撤廃などの大幅整備が必要になったり、ヘイトスピーチ対策を付け足すにしても、同時提出してしまうと、法改正も同時に行う事になります。

そういうことを考慮すると、同時提出を避けて、新たに『人種差別に関する法律』を付け足すことで、迅速に新しい立法を行おうという事が今回の民主党案の狙いだと私は思います。

またコレを批判する際に『性的少数者』についての指摘もありましたが、これはまだ議論が深まっていないということだと思います。少なくとも、今月の10日に日経新聞にて『民主、性的少数者の権利保障へ対策検討』という記事が出ていますので、今後(記事によると『今国会中に』)一定のプロセスを経て、『性的少数者であることを理由とする差別の解消の推進に関する法律』みたいなのが出てくると思われます。

なので『人種差別だけを規制する』というのは認識の間違いで、他の法律などとの関係で『ヘイトスピーチをひとまとまりに規制』するのは困難なので、現在、その行為の定義やその行為からの救済のための法律が欠けていることを、国連の人種差別撤廃委員会からも指摘された『人種差別』を範囲にした差別解消を推進する法律を出して、そこにヘイトスピーチ禁止を載っけてみた、という事なのだと思います。(民主党の小川議員などは「法案は人種差別撤廃条約を受けた基本法という位置付けだ。その中に人種差別等の行為の1つとしてヘイトスピーチを盛り込み、これを禁止する内容となっている。刑事罰は入っておらず、あくまでも禁止される行為として明記した」と説明しています)

参考

 

 

・「障害者差別や性的少数者差別はヘイトスピーチじゃないのか」について

まず、この言及に対して言えることは『今回の法律は「ヘイトスピーチはコレだ!」という定義をしているわけではない』ということです。(これについては本人も気づいたようで後に『人種のみに絞ったヘイトスピーチ規制化。んー、普通にヘイトスピーチ法規制はできなかったのかね?』とツイートしている。)

今回の民主党提出の法律案ではヘイトスピーチという語句は使わずに、以下のように書いてある条文で『ヘイトスピーチを禁止している』という事になるのだと思います。この条文をどう思うかは色々あると思いますが、少なくとも『人種差別だけがヘイトスピーチ』ということは表現されていないということは共通理解にできるのではないかな?と思います。

 

第三条(略)

2 何人も、人種等の共通の属性を有する不特定の者について、それらの者に著しく不安若しくは迷惑を覚えさせる目的又はそれらの者に対する当該属性を理由とする不当な差別的取り扱いをすることを助長し若しくは誘発する目的で、公然と、当該属性を理由とする不当は差別的言動をしてはならない。

(下線を引いた部分が『ヘイトスピーチ』を表す部分で、その前段は人種差別的ヘイトスピーチの『人種差別的』という部分を表している)

 

 

また、個人的にここで考えて欲しいのは『これまでいかなる文脈でヘイトスピーチが語られてきたのか?』ということです。

ヘイトスピーチという言葉が語られるようになっていった原因の大きな部分を占めるのが『嫌韓』系、つまり外国人差別関連の言動では無かったでしょうか?在特会の存在、次世代の党の存在、頑張れ日本の存在、それらの団体に属していたり、懇親にしているような方々の『在日特権』などの誹謗中傷などがヘイトスピーチという概念の普及に一役買ったのではありませんか?

そしてそのトドメになったのが国連の人種差別撤廃委員会の『日本の第7回・第8回・第9回定期報告に関する最終見解』という報告書での『人種差別的ヘイトスピーチへの対処』への言及だったのではありませんか?

そのような積み重ねが合った結果、日本では『ヘイトスピーチ=人種差別』という関係が文脈により作られていっているのではないですか?そういう積み重ねが背景にあることで、特徴が伝わりやすいから、今回の法律案を『ヘイトスピーチ』と表現しているのだと私は思います。

(世間的に話題が『人種差別的ヘイトスピーチ』に偏っているという批判だったならば、法務省でも『近年,特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動がいわゆるヘイトスピーチであるとして社会的関心を集めています。』と書いているなど、人種差別的ヘイトスピーチばかりが話題になっていて、IMADRなどが作成したヘイトスピーチに関しての冊子にて、レインボー・アクションの方が『そもそも国際的にも、セクシュアル・マイノリティに対する差別を禁止する条約は未だなく、この発言を問題化するハードルは高い。』と寄せていたりするので、正しい批判だと思いますが)

 

 

色々と書いてきましたが、この法律案は完全なものではありません。共産党の小池政策委員長の『今回、民主党などが提出した法案については、「ヘイトスピーチ」や「差別」の定義が明確でなく、恣意(しい)的に拡大解釈されるおそれがあります。』という指摘ももっともだと思います。

私は、この法律案を受けての今後の議論が国会で発生するのか?そもそも民主党、社民党、共産党以外の政党は反応するのか?という部分などを今後見ていく事が大事だと思います(多分、国会では自民党が取り上げることを承諾せずに吊るされて廃案になるでしょう)。が、その反応として揚げ足取りのような反応が早速出てきたのが個人的に残念だと思いました。

また、性的少数者の差別を禁する法律も、できるだけ早く明文化されて法律案として提出されることを期待しています。

参考

 

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